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現実味を帯びる年内解散の可能性

永田町政態学 

 八月二十九日、今の衆院議員の任期は残り一年となる。消費増税をめぐる民主党の分裂で、野田首相は政権運営を自民、公明両党に頼らざるを得ない状況に追い込まれた。自公両党が求める早期の衆院解散も現実味を増している。

 七月十九日夜、野田首相は東京・紀尾井町のホテルニューオータニの中華料理店で、同じ松下政経塾出身の樽床伸二民主党幹事長代行や自民党の逢沢一郎衆院議員らと会食した。首相と逢沢氏は互いに信頼する仲で、逢沢氏は常々、首相に政権運営の助言をしている。首相はくつろいだ様子で、「ボコボコにされているが、頑張る」と引き続き政権運営にあたる考えを語ったという。

 首相は六月二十六日の消費増税法案の衆院通過後、沖縄・尖閣諸島の国有化や、集団的自衛権の政府解釈の見直し検討を表明するなど、外交・防衛分野に政策の軸足を置こうとした。野党から「欲張り」(石原自民党幹事長)と批判され、いずれも実現は困難な見通しだ。ただ、首相は、消費増税で社会保障の安定財源にメドを付けたとアピールし、さらに外交・防衛政策でも成果を上げ、衆院解散に踏み切りたいと考えているとされる。

 首相官邸の首相側近議員は、解散時期を?年内?来年一月の通常国会冒頭?来年三月の予算成立後?来年七月の参院選とのダブル選──の四つに分け、民主党に最も有利な展開となる時期を見極めようとしている。

 首相は解散時期について、「やるべきことをやった暁に、国民に信を問う」と述べるにとどめている。岡田副総理と枝野経済産業相は、もう一度、民主党政権で予算編成を行い、業界団体の支持を確固たるものにしたうえで、来年解散すべきだ──と語っている。

 だが、ここに来て?のケース、つまり年内解散が最も有利だとの見方が強まってきた。

 民主党執行部の一人は「十月解散・十一月選挙」を主張する。「九月の代表選で勝って、力強い人事をやる。十月に二〇一二年度第一次補正予算と衆院選挙制度改革を仕上げ、人事がフレッシュなうちに選挙をやってしまう。これがベストだ」。

 世論の高い支持を集める橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」は、次期衆院選の「台風の目」になるとみられている。一方で、維新の会は消費税の地方税化を主張するなど、政策の問題点が明らかになりつつある。小沢一郎氏率いる「国民の生活が第一」も、来年まで政党交付金を受け取れない。「第三極」が態勢を整える前に戦った方がいい──というわけだ。

 もっとも、首相が主導して解散に踏み切れるかどうかは微妙だ。
 自民党の石原幹事長は「解散権は野党が握っている。近年まれに見る政局だ」と怪気炎を上げる。民主党は、分裂したといっても衆院(定数四八〇、欠員一)で過半数を上回る二五〇議席を持っている。野党が内閣不信任決議案を提出しても、民主党の造反がなければ可決しない。それでも石原氏は解散に追い込めるとみている。

 自民党の戦術は、不信任案のほかに二つある。

 一つは、野党が多数の参院で首相問責決議案を可決させ、国会審議を拒否する。首相は早晩、衆院を解散せざるを得なくなる──というものだ。ただ、伊吹文明元幹事長らは、野党の審議拒否が世論の批判を浴びるケースを警戒しており、問責提出に慎重だ。

 もう一つが、再び「話し合い解散」を仕掛ける手法だ。まず参院で消費増税法案を再修正し、衆院に法案を戻す。衆院で法案を再議決する際、多くの増税反対の議員が残った民主党では、造反が避けられない。与党単独では成立しない状況をつくり、法案成立と引き換えに解散を首相に約束させる──というもので、「奇策」と言える。

 七月十三日、自民党の石破茂前政調会長と党本部で会談した谷垣総裁は「消費増税と解散と、二兎を追ったが、甘かった。不信任でも問責でも何でもやる」と語った。

 小沢氏が去った民主党では、「ポスト野田」の有力候補は不在と言われる。首相の代表選での再選は有力だ。かたや谷垣氏は、九月の総裁選で再選を目指して出馬しても、政権を奪還できなかった責任を問われるのは確実で、情勢は厳しい。今国会会期末(九月八日)までに解散に追い込むしか、再選の芽はないとされる。谷垣氏の焦りは、自民党の態度硬化につながっている。民主、自民両党の盛夏の攻防が続く。(宏)
(了)

〔『中央公論』20129月号より〕