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新政権を待ち受ける内憂外患

日銀総裁人事、中国ファクター……
鈴木美勝(時事通信解説委員)

 世界的な選挙イヤーと言われた二〇一二年も終わり、日本の政界も政権交代と共に新たな年を迎えた。今年の日本政治最大のイベントは参院選。民主党政権の敵失が大きかったとはいえ師走の衆院選で大勝した自民党にとっては夏の参院選でも勝利し、二連勝しなければ意味がない。年が明け、次なる勝負に向けての戦いは早くも始まっている。

 重心を低くして血気に逸る気持ちを抑制するかのような首相・安倍晋三だが、まずは最大の懸案として「デフレ脱却・景気回復・雇用創出」に照準を合わせる。年越し編成となった来年度予算案の審議は二月からスタート。成立は四月末か五月の連休明けとなる見通しだ。切れ目なく公共事業を執行するため、既に大型補正予算の編成にも着手している。夏の参院選までにデフレ脱却の道筋をつけられるかどうか。景気回復が国政選挙連勝のカギを握る。

前門のトラは日銀総裁人事

 衆院で三分の二を確保したものの、参院では少数与党の安倍政権が、政策面で選択できる幅はまだ狭い。自民(八三)、公明(一九)の二党合わせても過半数ライン(議長を除き一一八=昨年十二月十六日時点)に一六議席届かないためだ。自民党は、公明党との連立を基本に、参院での多数派工作に向けて他党との「部分連合」を模索する必要がある。参院での過半数を制するために想定されるのが、「自公(一〇二)+みんなの党(一一)+国民新党(三)+新党改革(二)か、自公(一〇二)+みんなの党(一一)+日本維新(三)+新党改革(二)か」(安倍周辺筋)という二つの連携パターンだが、それぞれの主張・政策を考えると、簡単にはまとまらない。

 そこで割り切ってしまえば、参院選(任期満了七月)を夏に控えているだけに、無理して新味を出すこともない。

 安倍周辺筋が語る。「安倍さんは、前回、短期政権に終わったことを最も悔いている」。防衛庁の「省」への昇格、教育基本法の改正など短期間で成果を挙げたものもあるが、デフレ脱却と憲法改正という悲願は成就できなかった。「今度は長期政権によって『戦後レジームからの脱却』を、というのが安倍さんの思いだ」――。そんな安倍に、参院選で勝利するまでは「安全運転で行く」という気持ちが生じるのも当然だろう。

 無理はしないとは言うものの、安倍政権には最低限やらなければならないことがある。それはまず、日銀総裁(任期満了四月八日)と副総裁(同三月十九日)人事だ。日銀総裁・副総裁人事は国会同意人事で、これについては衆院優越の制度はなく、衆院の議席三分の二を占めていても再可決はできない。衆参ねじれ状態の国会では、与野党対決の火種となる場合があるのだ。ポスト福井をめぐる前回の日銀総裁人事がまさにそうだった。

 自民党政権時代の二〇〇八年三月、政府は福井俊彦日銀総裁の後任候補として武藤敏郎日銀副総裁の昇格を国会に提示、衆院で同意を取り付けたが、参院では民主党などが反対、「武藤総裁」を不同意とするなど、日銀総裁人事をめぐって国会は混迷した。参院選を控えた今回も、自民 vs.民主の激しい駆け引きが展開される可能性がある。

 今回の白川方明総裁の後継候補については、オーソドックスな予測として武藤(元大蔵事務次官、大和総研理事長)、岩田一政(元日銀副総裁、日本経済研究センター理事長)、さらには安倍の意中の人とも言われる竹中平蔵(元経済財政担当相、慶應義塾大学教授)、小泉純一郎元首相の信頼も厚い丹呉泰健(元財務事務次官、読売新聞グループ本社監査役)など諸説が交錯。ポスト白川レースはまだ混沌としているが、「日銀」の役割は、「デフレ脱却」を目指す安倍の景気対策にとって極めて重要である。安倍政権が参院での過半数確保に失敗すれば、政局絡みの展開になり得るだろう。

連動する米中韓との対外関係

 内憂外患――外交問題も待ったなしの対応を迫られている。米国との信頼関係再構築をはじめ、悪化した対中・対韓関係の修復を中心とする難題が山積する。オバマ大統領が再選された米国、習近平体制に引き継がれた中国、朴槿恵が新大統領に就任する韓国。選挙イヤーの二〇一二年を経て、アジア太平洋をめぐる戦略環境は、複雑化・流動化の度を増している。

「中国ファクター」は特に厄介だ。対中関係は第一次安倍政権の時と比較して問題の本質を単純化できないためだ。

 第一に、安倍が小泉政権を引き継いだ時の日中関係とは構図が違う。当時は、靖国神社に毎年参拝した小泉首相の後だけに、首相・安倍が靖国参拝さえしなければ関係は自動的に修復されるという単純な構図だった。だが、昨年四月、石原慎太郎(当時東京都知事)が事実上、火を付けた尖閣諸島問題が直接絡んでいる今回は違う。問題の構図、両国が今置かれている環境はより複雑になったと言えよう。

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