悪評ゆえに濃厚となる石破幹事長の続投

永田町政態学

 東京都議選は自民党の圧勝に終わり、永田町の関心は、今秋に予想される内閣改造・自民党役員人事に移っている。直前の都議選で示された民意のトレンドは変わりそうもなく、政局を動かすキーマンたちにとって、七月の参院選(四日公示、二十一日投開票)での自民党勝利と安倍政権続投はすでに織り込み済みとなっているからだ。

 首相は参院選勝利で第一次政権の雪辱を果たせば、長期政権に向けた布陣を敷くため、党役員の任期が切れる九月末にも人事を断行する構えだが、その焦点は党ナンバー2の石破・自民党幹事長の処遇とみられている。

 ポスト「安倍」の有力候補とされる石破氏にとって、次のポストが将来を目指す上での重要なステップになるのは必至。石破氏側近は「自民党衆院議員二九四人のうち、安倍支持派が一〇〇人前後で、石破支持派は八〇人前後。二人がタッグを組めば三分の二を押さえられるのだから、首相は石破氏とうまくやっていく方を選ぶだろう」とみているが、本人や周囲は気が気でないようだ。

 石破氏は一九五七年生まれの五十六歳。鳥取県出身で、父の参院議員・二朗氏の死後、銀行を辞めて八六年の衆院選で初当選し、連続当選九回。小泉内閣で防衛庁長官、福田内閣で防衛相を務め、テレビなどで外交・安全保障分野の論客として知られるようになり、徐々に頭角を現した。二〇〇八年、一二年の総裁選に二度出馬し、いずれも敗れたが、昨年の総裁選の一回目の投票では、過半数を上回る党員票を獲得するなど、地方組織の人気は厚い。かつて名門の平成研究会(現額賀派)に所属したが、離脱して「脱派閥」を掲げている。

 ところが、肝心の幹事長としての石破氏の評価は、党内から厳しい声が続出している。最重要課題だった参院選の候補者調整を巡っても、石破氏の調整能力には疑問符がつけられた。

 石破氏は、参院埼玉選挙区(改選定数3)で、公明党新人の自民党推薦を決めた。勝敗の帰趨を左右するとされる全国の「1人区」で公明党の協力を得るための「異例」の措置だった。しかし、同選挙区の自民党公認・古川俊治氏(当選一回)の了解を得ずに話を進めたために、厳しい選挙を強いられることになった古川氏が「執行部の対応は許せない」と、公然と石破氏を批判する事態になっている。

 参院比例選では、二階俊博総務会長代行が積極的に候補者擁立に動いた。石破氏は独自の動きをみせる二階氏に対し、「たまったものじゃない」と愚痴をこぼしているが、党内の大勢は「元はと言えば、石破氏が候補者をみつけてくることができなかったからだ」と冷ややかだ。

 五月、自民党の衆院比例選の全国各ブロックのグループが議員懇談会として会合を開き、石破氏を招いた。自民党幹事長室の「金庫」の中にある政治資金を期待してのことだったが、石破氏はカネを配らず、失望感が広がった。党内では「石破氏は幹事長失格だ」との声も出始めている。

 しかし、首相は秋の内閣改造・党役員人事で、石破氏を続投させる考えに傾いているようだ。首相は周辺に「石破さんは外でしゃべるのがうれしいようだ。幹事長にしては、全く人心掌握できてないようだし、このまま幹事長にしておいてもいいかもしれない」と語っている。

 首相は昨年九月の総裁選で石破氏を破ったが、石破氏に対する地方組織の人気を考慮し、幹事長に抜擢した。

 一方で、首相は、石破氏が幹事長の権限を駆使して首相の寝首をかくことを警戒し、幹事長の「お目付け役」となる副総裁に、首相に近い高村正彦元外相を、幹事長の行動を逐一把握できる幹事長代行ポストに、首相側近の菅義偉氏(現官房長官)をそれぞれ配置し、石破氏の動向に目を配った。政権交代後、菅氏の後任には、やはり首相の出身の町村派から細田博之幹事長代行を置いた。

 石破氏は一月、無派閥の国会議員ら三七人を集めて「無派閥連絡会」を結成した。当初は石破氏を警戒する派閥からは、「石破派をつくるつもりか」(町村派)と批判の声も上がったが、その後、連絡会は目立った活動を控えており、「面倒見が悪い」と言われる石破氏は、自らの勢力拡大にも関心が薄いとの見方も出ている。

 悪評が高いため幹事長として警戒されず、続投説が強まるとは皮肉だが、石破氏は周辺にこう語っている。

「首相の言うことに従うだけだ。頼まれれば、どんなポストでも受ける」
(了)

〔『中央公論』20138月号より〕

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