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自民圧勝で幕開きとなる官僚たちの憂鬱な夏

永田町政態学

 参院選を大勝し、安倍政権は安定政権への道のりを歩み始めたが、霞が関のキャリア官僚たちにはため息が広がっているという。原因は「将来への不安」だ。

 人事院が六月二十一日に公表した二〇一二年度年次報告書によると、五十歳代の官僚の早期勧奨退職、いわゆる「肩たたき」が、ここ五年で半数以下に減り、審議官級以上の指定職の平均年齢は、〇二年からの一〇年で一・一歳上がった。「天下り」のあっせんとセットで行われてきた早期勧奨退職には、高額な退職金や官民の癒着への批判もあり、勧奨年齢引き上げなどの改革が続いてきた。結果、〇四年当時は約七四%だった四十八歳以上五十六歳未満の指定職は、一二年時点で約五〇%に減少。四十八歳以上五十二歳未満の指定職は、一五一人から二九人に激減した。定年まで各省に居座る幹部が増えたために昇任スピードが遅くなり、「出世」や天下りの道が厳しくなっている。

 たとえば、国土交通省の旧建設省出身者。入省三〇年目のキャリアであれば、一昔前なら天下りが始まる頃だが、今のところ、本省局長への昇任者すら「ゼロ」にとどまっている。報告書は「若手・中堅職員の士気の低下や組織活力の低下が危惧される」と指摘した。

 さらに、政府の国家公務員制度改革推進本部(本部長・安倍首相)が六月、省庁幹部の人事を一元管理する「内閣人事局」を二〇一四年春に設置するなどとした基本方針を決定したことが追い打ちをかけている。

 公務員制度改革は、第一次安倍政権で「戦後レジーム(体制)からの脱却」の中核としていたテーマだった。その後の福田政権で自民、民主、公明三党が賛成して国家公務員制度改革基本法が成立。各省で六〇〇人に上る指定職の人事について、官房長官が候補名簿を作成し、内閣官房に「内閣人事局」を設置して一元管理する方針が決まったが、内閣人事局を制度化するための関連法案は、自公政権下で一度、民主党政権で二度、国会提出されながら、廃案になった。内閣人事局は安倍首相にとって再チャレンジの象徴であり、首相は周辺に「人事を握らないと本当の意味での政治主導はできない」と語り、幹部人事の一元管理に強い意欲を示しているという。

 基本方針に対しては、与党内から異論も出ている。内閣人事局を設置する際には、第三者機関の人事院が持つ機能のうち、各省職員の給与ランク別に定数を決める「級別定数」と呼ばれる権限などを移管することが想定されている。使用者である内閣官房の権限を強めるのであれば、現在は制限されている国家公務員への労働基本権付与を求める声が強まることは必至だが、自民党は基本権付与には強く反対している。公明党からは、「人事の中立性が損なわれる」との懸念が出ている。

 与党内の慎重論に配慮したのか、参院選の期間中、首相は公務員制度改革にはほとんど触れなかったが、担当の稲田公務員改革相には「一歩も後退するな」と指示している。稲田氏は秋の臨時国会に法案を提出する構えだ。早ければ八月中に調整が本格化するとみられ、参院選で大勝した首相にとっては最初の勝負所となるかもしれない。

 今のところ、霞が関の官僚からは表立った反論は聞かれないものの、「これ以上、人事に介入してほしくない」という本音も聞こえてくる。今夏行われた各省幹部人事では、民主党政権を支えた大物官僚が相次ぎ退任した。一方で、首相官邸色の強い人事が目立った。首相と親交の長い斎木昭隆・前外務審議官は外務次官に就任。総務次官には、菅官房長官が「政治の師」と仰ぐ故梶山静六自治相の秘書官だった岡崎浩巳・前消防庁長官が起用された。国交省の旧運輸省事務系キャリア官僚の「指定席」ポストとされてきた海上保安庁長官には、佐藤雄二・海上保安監が昇格した。佐藤氏は海上保安大学校卒。巡視船の通信長を務めるなど海上警備の指揮経験が長く、現場出身の長官登用は初めて。政府関係者は「安倍首相が主導して決めた」と語った。ある省では、「肩たたき」の対象ではなかった局長が突然、退職を言い渡され、官舎からの退去を迫られて一時的に住む場所がなくなった、などという例もあったという。

 一連の官邸主導人事に対し、「これでは民主党政権と変わらない」との不満の声も出始めている。ある与党幹部はこんな懸念を漏らす。

「幹部公務員の人事一元化を強引に進めれば、政権と霞が関との蜜月関係が変化するかもしれない」(葉)
(了)

〔『中央公論』20139月号より〕