選挙制度改革は国政選挙のない今しかない

永田町政態学

 米軍普天間飛行場移設問題を争点とした沖縄県名護市長選や、「脱原発」「東京五輪」を巡る論戦が繰り広げられた東京都知事選など二〇一四年は年明けから地方選に注目が集まった。一方、今年は参院選もなく、衆院選の可能性も低いことから、補欠選挙を除けば「国政選挙のない一年」になると見られている。

 衆院選に小選挙区比例代表並立制を導入した政治改革関連四法の成立(一九九四年三月四日)から二〇年。衆院では二〇年前に予期しなかった選挙制度の欠陥が指摘され、参院でも抜本的な改革の必要性が叫ばれて久しい。しかし、衆参両院の選挙制度改革を巡る与野党協議は、遅々として進まないのが現状だ。

 司法は立法府に対し、早急な改革を求めている。最高裁は夏にも、昨年七月の参院選を巡る「一票の格差」訴訟で判決を下す。最高裁は、選挙区選の最大格差が五・〇〇倍だった前々回の一〇年参院選について、格差が「違憲状態」にあると指摘し、都道府県単位で定数を配分する現行方式を抜本的に見直すよう求めた。にもかかわらず、国会の取り組みは一二年に参院の選挙区定数を「四増四減」する微調整にとどまった。

 与野党は「四増四減」を盛り込んだ改正公職選挙法の付則に、一六年夏の参院選までに「抜本的な見直しについて結論を得る」と明記し、内外に強い決意を示した。ところが、抜本改革の具体案は依然、示されておらず、与党幹部は「このままでは最高裁から『怠慢』の烙印を押され、『一三年参院選の効力は無効』とする厳しい判断が示されかねない」と危機感を募らせる。こうした状況を受け、参院選挙制度協議会の座長を務める自民党の脇雅史参院幹事長が、最高裁判決前の今春にも、「私案」を提示する見通しだ。関係者は「建設業界を票田に持つ比例選出のベテラン議員の脇氏は、比例選の抜本的な見直しには手を付けないだろう」として、選挙区選で隣県の選挙区を合併する「合区」案が有力ではないかと見る。

 合区案は民主党政権下で検討されたことがある。民主党は一一年七月、・選挙区と比例代表の定数を二〇ずつ削減し、総定数を二〇二とする・長野・山梨など一〇選挙区を合区して五選挙区とする─案を示した。作成を主導したのは、当時の輿石東民主党参院議員会長だ。輿石氏は参院副議長となった今も党内に隠然たる力を持っており、与党内には「合区なら、民主党をはじめ野党の理解も得やすいのでは」と期待する声がある。

 一方、衆院では、選挙制度改革の機運が参院ほど高まっていない。昨年十一月の一二年衆院選を巡る最高裁判決が「漸次的な見直しも、国会の裁量に係る現実的な選択として許容されている」などと、穏便な内容にとどまったからだ。与党には「今後も『一票の格差』は漸次的に見直していけばいい」とする弛緩ムードすら漂う。

 判決で評価されたのは「〇増五減」による格差是正だ。一二年十一月の衆院解散直前、衆院選の小選挙区定数を「〇増五減」する選挙制度改革法が成立した。当時、民主党の野田首相は、衆院解散と引き換えに同法成立への協力を求め、野党・自民党の安倍総裁もこれに応じた。具体的な区割りの見直しは直後の衆院選に間に合わなかったが、安倍氏が首相に返り咲いた後の一三年六月、区割り法の成立で実現にこぎつけた。「一票の格差」は一・九九八倍に縮小され、最高裁が求める「二倍未満」に収まった。最高裁はこうした政治の努力に対し、「一定の前進」だとした。

 が、決して国会の取り組みを是認した訳ではない。判決の主文では「今後も選挙制度の整備に向けた取り組みが着実に続けられる必要がある」と最後に念を押している。

 小選挙区制は「風」が当落を大きく左右するため議席の振幅が激しく、見識を持つベテランが簡単に落選したり、有望な若手が短期間で政界を去ったりするケースが少なくない。ライバル候補より一票でも下回れば落選してしまうため、財源などを無視して有権者受けを狙うポピュリズム(大衆迎合)も横行した。比例選を巡っても、みんなの党の比例選出議員の一部が集団で新党「結いの党」に移り、これが現在は法的に認められていることから、議論を呼んでいる。

 来年秋には自民党総裁選と民主党代表選があり、その後は衆院議員の任期満了(一六年十二月)まで残り一年余とあって、政治家の腰が浮き始める。各党の利害を超えて選挙制度改革に取り組めるのは、今しかない。(凜)
(了)

〔『中央公論』20143月号より〕

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