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日米首脳会談で真価が問われる"鳴り物入り大使"

永田町政態学

「首相は本日、靖国神社に参拝します」

 昨年十二月二十六日、安倍首相の靖国神社参拝直前、日本政府から一報を受けたキャロライン・ケネディ駐日米大使は、戸惑いを隠せない様子だったという。

 折あしく、プライベート旅行中で、京都の老舗旅館に滞在していたためだ。同じころ連絡を受けた在日米大使館ナンバー2のカート・トン首席公使も、やはり私用で東京を離れ、スキーを楽しんでいる最中だった。

 休みで大使が大使館を離れること自体、何の問題もない。ただ、「ナンバー1とナンバー2がそろって不在だったことで、米大使館が完全に不意を突かれる形になった。そのうえ、米国は時差の関係で、聖なる日クリスマスの夜だった」ことは、日米双方にとって不運だった。

「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」と、米大使館が異例の声明を発表した背景には、こうした悪条件の重なりが、米側を感情面で刺激した側面もあったようだ。

 米側はその後すぐに、公式の場では「失望」という言葉を封印した。外務省の齋木昭隆次官も省幹部を集め、「日米関係についてマスコミに余計なことを言わないように」とクギを刺した。日米関係のしこりとなる事態を避けるためだ。

 ケネディ大使について、外務省内では「政治外交経験の少なさを感じさせる言動が垣間見える」との評がある。

 一月十八日に自らの簡易投稿サイト「ツイッター」で、和歌山県で行われているイルカの追い込み漁について、「米政府は反対します」などとするメッセージを投稿したこともその一つだ。

 日本政府関係者は「個人的見解を米政府の見解として投稿するやり方は公私混同と取られても仕方ない」と表情を曇らせる。

 その一方、沖縄県の仲井眞弘多知事が昨年末に上京した際、体調を崩して入院すると、プレスリーなどのCDを差し入れるなど、女性ならではの細やかな気遣いも示した。

 二月十一日から十三日にかけての沖縄訪問では、現地で避けるべき話題や発言を盛り込んだ「べからず集」に事前に目を通し、言動には慎重を期したという。サインボールを交換した仲井眞知事との会談は終始なごやかな雰囲気に包まれ、ケネディ大使は「米軍の基地負担軽減に力を尽くさないといけない」と請け負ってみせた。

 そのケネディ大使にとって当面の最大の仕事が、四月下旬のオバマ米大統領の来日だ。

〈日米の首脳が、両国の結束と経済連携を確認。中国が東シナ海に一方的に設定した防空識別圏(ADIZ)を受け入れないとの認識で一致するとともに、日米同盟の中長期的な強化策を話し合い、日本の集団的自衛権行使を視野に入れた日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定に向けた決意を表明する。大統領は韓国との関係改善を呼びかけ、日韓の仲介役を果たす──〉

 日米両政府が描く大統領来日の理想型はこんなイメージだ。日米間の不協和音を吹き飛ばし、中国に「日米間に付け入るスキはない」と思い知らせる狙いがある。

 しかし、首相と大統領の関係は、かつてケミストリーがピッタリ合うといわれた「小泉・ブッシュ」関係とは趣が異なる。首相は一月二十四日の施政方針演説で、「可能性」を信じて行動を起こす意志の力を強調し、「やればできる」と訴えた。首相周辺の一人が「オバマ大統領の『イエス・ウィ・キャン』と通じますね」と水を向けると、首相は「今言われるまで気づかなかった」とぶっきらぼうに答えたという。

 首相は自らの靖国神社参拝に米側が「失望」声明を出したことにも、周囲に不快感を示しているとされる。

 日韓関係では改善の糸口が見いだせない状況だけに、大統領の仲介が逆に首相の不興を買う可能性もある。中国との関係でも、「オバマ政権は、スーザン・ライス大統領補佐官が『新たな大国関係』を掲げるなど対中融和路線に傾きがちなだけに、中国に厳然とした姿勢を貫く安倍首相と、首脳会談で温度差が表面化しなければいいが」(日米交渉筋)と懸念する声もある。

 期待と不安をはらんだ大統領来日。日米の将来に大きな影響を及ぼすのは必至で、同時に、鳴り物入りで就任したケネディ大使の真価が問われることになる。(官)

〔『中央公論』20144月号より〕