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中韓急接近に焦る日米 暗中模索の日韓協議

永田町政態学

 四月十六日午後、ソウル市の韓国外交省は緊張した雰囲気に包まれていた。日本外務省の伊原純一アジア大洋州局長と、韓国の李相徳東北アジア局長との日韓局長級協議が開かれたからだ。

 韓国外交省では、外国要人との会談では冒頭の取材と撮影、いわゆる「頭撮り」が慣例だが、日韓双方のマスコミは最初から閉め出された。午後三時の開始予定も、韓国側からの申し出により、一時間遅れた。日本政府筋は「頭撮り禁止は、日本との関係改善に前向きだと国内世論に受け止められることを韓国政府が嫌がったため。開始時間の遅れも、長い時間をかけて話すつもりはないという韓国側のメッセージだろう」と分析した。

 事前折衝では、いわゆる従軍慰安婦問題のみを話し合いたいとする韓国側に対し、日本側は北朝鮮の拉致、核、ミサイル問題や竹島問題なども議題とするよう主張。結局、初回は慰安婦、二回目以降に北朝鮮問題などを話し合うことで折り合った。

 韓国外交省によると、協議で韓国側は慰安婦問題について法的責任の認定、政府による補償、安倍首相の謝罪の三点を要求した。日本側は「法的な問題は、一九六五年の日韓国交正常化時に結んだ日韓請求権・経済協力協定で解決済み」との立場を改めて説明した。

 協定には請求権の問題が「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。個人の賠償請求権を認めれば、韓国内で訴訟が相次ぐ元徴用工の問題にも影響が及ぶため、日本外務省幹部は「譲歩はできない」と言い切る。

 ただ、日本側は協議結果に一定の手応えを感じている。首相周辺は「議論のテーブルにつき、五月に東京で二回目の協議開催を確認できた意義は大きい」と語る。

 冷え切った日韓関係に転機が訪れたのは三月十二日、斎木昭隆外務次官の訪韓だった。三月下旬にオランダで開かれる核安全サミットにあわせて日米韓首脳会談を実現させるため、韓国側を説得することが目的だった。

 会談相手の韓国外交省の趙太庸第一次官は、「慰安婦問題の協議を始めてほしい」「安倍首相が『河野談話』と『村山談話』の継承を明言すること」「日本の政治家が歴史認識に関して不規則な発言をしないこと」と、三つの条件を提示。斎木次官は「慰安婦問題は何らかの形で協議を行う」と答えたが、河野談話の扱いなどでは折り合いがつかなかった。

 斎木次官は十三日、首相官邸で安倍首相に会談内容を報告。首相が国会で、韓国側の要求に一定程度応じる答弁をする方向で話し合った。答弁は、慰安婦問題で「おわびと反省の気持ち」を表明した河野談話について、「安倍内閣で見直すことは考えていない」と明言し、元慰安婦にも「筆舌に尽くしがたいつらい思いをされたことを思い、非常に胸が痛む」と述べる内容だった。
「これを言えば、韓国は何とかなるのか」

 首相の問いに斎木次官はうなずいた。実際、首相の答弁に、韓国の朴槿恵大統領は「村山談話と河野談話を継承する立場を発表したことは幸いだ」と態度を軟化させ、日米韓首脳会談は実現の運びとなった。

 このように、日本が韓国との関係改善を急ぐ背景には、米国と中国という二つの大国の存在がある。

 米国は日韓に対話を強く促している。同盟国である日韓が対立したままでは、核実験やミサイル発射を繰り返す北朝鮮に効果的な対処ができないなど、オバマ政権の「アジア重視」戦略にも支障を来すからだ。

 中韓の急接近という事情も大きい。三月二十三日の中韓首脳会談で、中国の習近平国家主席は、中国黒竜江省ハルビン駅に開館した朝鮮独立運動家・安重根の記念館について「建設は私が直接、指示した」と明言。朴大統領も謝意を示した。安重根は、日本の初代総理大臣、伊藤博文を暗殺した人物であり、中韓両国が歴史問題で「反日共闘」路線を鮮明にした格好だ。

 経済でも二〇一三年韓国貿易統計をみると、輸出額は対中国がトップの二六%で中国依存度は過去最高。二位の米国(一一%)と日本(六%)を足しても届かない。

 日本外務省幹部は、「韓国は近い将来、日米から離れ、中国の影響下に取り込まれかねない」と語る。

 話し合いが緒に就いたばかりの日韓。「韓国は仲介役の米国の顔を立てているだけ」と冷めた見方もあるが、話し合いが継続するか、断絶するかは、東アジア情勢全体に影響を及ぼす可能性がある。(み)
(了)

〔『中央公論』2014年6月号より〕