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「大臣病」を利用して反対を封じ込めた安倍首相

永田町政態学

 安倍晋三首相は五月十四日夜、首相公邸に自民党の高市早苗政調会長と党の政調部会長ら十数人を招いた。

「政高党低と言われるがそんなことはない。(政調)部会がしっかりやってくれるから国会もまとまる」

 フレンチのフルコースを前に、首相はシャンパンとワインでほほを赤らめながら、高市氏らをこうねぎらった。部会長は一人一人、部会の現状を首相に報告したが、さながら成果のアピール合戦の様相となった。

 それもそのはず。首相が通常国会会期末(六月二十二日)から秋の臨時国会召集までの間に、内閣改造・自民党役員人事を行うことは、永田町では既定路線。部会長は、大臣・副大臣候補と目される当選三、四回の中堅が多い。報告に熱が入ったのは、酒の勢いばかりではなかった。

 この会合も「首相による人事の『品定め』か」との観測が流れた。「政府と党の中枢、菅義偉官房長官、自民党の石破茂幹事長は続投だろう」「女性登用に積極的な首相は、現在、閣僚・党三役各二の女性をさらに増やすか」など、永田町は人事の話題で早くもざわついている。

 閣僚が一人も交代しないまま、五月九日に発足から五〇〇日を迎えた第二次安倍内閣。第一次佐藤改造内閣(四二五日)を抜いて戦後最長記録を更新中だが、次の内閣改造で途切れる見通しだ。改造の時期は八月末か九月上・中旬との見方が出ている。

 内閣支持率は高位安定、閣僚の不祥事や問題発言もないだけに、首相は「今の閣僚は何の問題もない。国会答弁も安心して見ていられる。代えたくないのが本音だ」と周囲に漏らしている。

 しかし、自民党内では、衆院当選五回以上で入閣経験のない「閣僚適齢期」の議員は四三人に上る。三年三ヵ月余の野党暮らしを経て、「一体、いつ閣僚になれるのか」と「大臣病」ともいわれる欲求不満が蔓延している。政府・自民党のトップとして放置はできない。

 その一方、首相は人事を最大限、利用するしたたかな一面も見せている。人事の前には、人事権者の求心力が高まる。これを巧みにいかし、党内の反発が予想される国の重要政策について方向性をほぼまとめてしまった。

 集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈見直しを巡っては、首相が二月に人事断行の方針を明言したのに続き、高村正彦副総裁が「限定容認論」を提唱すると、それを落としどころにするというコンセンサスが自民党内で急速に広がり、反対論は一気に沈静化した。

 自民党の宏池会(岸田派)といえば、軽武装を掲げてきた政策集団として知られる。四月七日に集団的自衛権に関する勉強会を開いたが、「集団的自衛権への異論が出るのではないか」との一部予想を覆し、純粋な「勉強の場」に終始した。派閥会長の岸田文雄外相が勉強会を仕切る宮沢洋一参院議員に「党を割るような話ではない」と事前にしっかりクギを刺したのだ。岸田派には閣僚適齢期の衆院議員が六人おり、「反安倍」と見られるのは得策ではないとの判断が働いたようだ。

 環太平洋経済連携協定(TPP)も、農水族の反対論に勢いはない。むしろ、入閣経験がない、農水族の代表格、西川公也・自民党TPP対策委員長(当選五回・栃木2区選出)が族議員の間を走り回り、関税の部分撤廃容認の流れを作った。西川氏への首相の評価は高い。自民党内では「首相へのPRと貢献度は他の追随を許さない。農相に最も近い男」と見る向きもある。

 首相は「『人事カード』がうまく効いた」と気をよくしており、政高党低はいっそう顕著になっている。
 こうした中、月刊誌『世界』に掲載された野田聖子総務会長のインタビューが波紋を広げた。首相が意欲を見せる集団的自衛権に関する憲法解釈見直しについて、「違う政党の違う政権になったときに、また解釈を変えることが可能になります」と懸念を示したほか、「(自民党は)かなり右にずれた」と発言。首相の方針や現状に異を唱えたともとれる内容だったからだ。古賀誠・元幹事長が背後にいて、「次の総裁選をにらみ、首相と距離を置く勢力を結集する狙いがある」との観測も流れている。

 人事の後には、選ばれなかった議員による反発が待っている。一九九七年、ロッキード事件で有罪が確定した経歴を持つ佐藤孝行氏を入閣させ、高い支持率が一転、急失速した橋本龍太郎内閣の例もある。

 政治的にもホットな、人事の夏が近づいている。(真)
(了)

〔『中央公論』20147月号より〕