平井伸治知事が語る鳥取式コロナ対策とは?

平井伸治(鳥取県知事)
平井伸治・鳥取県知事
 日本一人口の少ない鳥取県は、全国でも珍しいクラスター条例の制定や、積極的なPCR検査など、新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)に対し、独自の取り組みを行っている。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーでもある平井知事に話を聞いた。

条例制定までの道のり

─まず、新型コロナのクラスター対策に鳥取県がどのように取り組んできたか教えてください。

 クラスターという形で爆発的に広がるのが新型コロナの特徴です。一つ一つの感染の連鎖に注目し、クラスターに対して鳥取県として、効果的に感染防止対策、拡大防止対策を打つことが大切だと思いました。

 従来行われていた対策とは、デパートや劇場など、大人数が集まる場所を閉めることです。しかし、新型コロナはそういう大きな空間よりも、小さなお店やライブハウスなどの三密空間でむしろ広がっていたのです。しかし、小さなお店は新型インフルエンザ等対策特別措置法で想定しておらず、そこを当初はちょっと無理して運用していました。

 名前の公表の問題もありました。クラスターが広がっていくということを事前に察知して、PCR検査を受けてください、と呼びかける時に、どこの施設でクラスターが発生したかということを皆さんに伝えなくてはいけないわけですが、この時、現場でいつもトラブルが起きるのです。店の協力を得たり人権へ配慮したりすることが必要ですから。

 それで、鳥取県では、「クラスター対策条例」を七月の末から構想し、八月の末に臨時県議会を開いて制定させていただきました。それが新型コロナ対策の一つのポイントだったと思います。

 クラスター対策条例の重要なところは、クラスターの拡大防止に事業者も県民も協力しましょう、予防と感染防止をやりましょう、そのためには、消毒や閉店などに協力してください、協力を得られない場合には勧告をして、お店を閉めていただくとしているところです。

 クラスターの発生したお店や施設の名前については、条例で知事が公表できるとしましたが、そこに至るまでは、業界の方々とだいぶ議論しました。例えば、宿泊施設のように宿帳があって宿泊客に連絡がとれるのであれば、わざわざ名称公表をしなくても、全員に対してPCR検査はできるという指摘があり、その場合は、名称公表は免除できる、と条例に入れました。

 もう一つ、あの当時、社会問題になっていたのが誹謗中傷です。患者さんや医療従事者、立ち寄り先の店舗などに誹謗中傷によって大変な被害が出る恐れがある、と。そこで誹謗中傷や余計な詮索をしないようにするために、条例で禁止することを考えました。条例の是非で、県議会でも侃々諤々の議論になりました。

 

─議会では、どういう懸念が出て、知事としてはどういう説得をされたのでしょうか。

 私どもは、クラスター対策条例にある程度の実効性を持たせようとして、例えば、行政機関は命令を出せるなど、少し強めの対策をとっていました。しかし、それはお店の側にとって過剰な侵害になりはしないか、という問題提起があり、議会で修正があって「勧告」という措置になりました。罰則もやめました。

 県民参画基本条例によるアンケート調査を実施し、九割以上の方の賛成をいただいたので、我々も自信を持って議会にかけました。

 人権問題については、議員からも理解をいただいて、前向きな議論が多かったと思います。そのなかで、クラスター対策条例には、新型コロナに感染した方の人権保護を盛り込みましたが、差別を禁止する条例がコロナが終わったらなくなるのか、という議論が出てきました。誹謗中傷は感染症だけの問題ではない。例えば、性的指向による差別とか、男女差別、国籍差別など、さまざまな、社会に分断をもたらすものがあります。そこで、新型コロナ対策とは別に差別を禁止する条例を作るべきだと、私が議会に提起しました。現在県議会で、「人権尊重の社会づくり条例」の改正案として、クラスター対策条例の差別禁止を基に、一般化する条例案が提出されています。

 今回の新型コロナを通して、病気にかかった人や医療従事者を差別、誹謗中傷したら、結局、感染症対策が進まないということをご理解いただいた。そのレガシーのような形で、これを鳥取県民の皆さんが守るべき永続的なルールに昇華させようとしたといえます。

 そのほかにも、第二波、第三波に備えて病床の数と、PCRの検査件数を増やしました。確保病床は現在三一七床あります。PCRの検査能力は現在、一日に四九〇〇検体。三月末までの間には、五六〇〇検体になる予定です。

 昨年から、第三波に備えて、診療・検査医療機関を指定し、町中のクリニックでも検査を受けたり、診察を受けたりできるようにする仕組みが全国で始まりましたが、大都市を中心に、協力をなかなか得られていないと聞いています。

 私どもは、医師会や個別のクリニックの先生方に集まっていただいて、何回も説明を重ねてきました。クリニックの先生方から、もし自分のところのスタッフに陽性者が出てしまったら、クリニックを閉めなくてはいけないから、補償をしてくれないか、という話が出ましたので、県の施策で補償するよう話をまとめさせていただきました。ていねいに話し合った結果、鳥取県では、三〇五の診療・検査医療機関を指定しました。実に、全医療機関の九割です。

 この診療・検査医療機関数も、確保病床数も、人口当たりで、全国平均の倍を遥かに上回っており、全国一、どちらもトップです。

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