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松井孝治 「ご愁傷様でした」 社会的エリートを嗤う日本の大問題

停滞・分断の進展を食い止めるために
松井孝治(慶應義塾大学教授)
 2000年代以降、政治家や官僚など社会的エリートをこき下ろして溜飲を下げるメディアや、またそのメディアを利用する野党議員の行動を目にすることが多くなった。権力者への諧謔は庶民の楽しみだが、一方でエリートを嗤って不満を晴らす日本、また政治状況には大きな問題が孕んでいると松井孝治・慶応大学教授は指摘する。
(『中央公論』2022年2月号より抜粋)
目次
  1. 落選議員に言い放った 「ご愁傷様でした」
  2. 社会的エリートへの不満と憎悪

落選議員に言い放った 「ご愁傷様でした」

 昨秋の衆議院選挙で私が最も衝撃を受けたシーンは、さる民放局の選挙特番であった。漫才師として常々その感性に舌を巻く爆笑問題の太田光氏がMCを務める番組で、氏が二階俊博氏や甘利明氏に鋭く突っ込むのはよいにせよ、小選挙区における落選が確定した甘利氏に対して、「ご愁傷様でした」と言い放ったシーンは最悪の後味とともに私の記憶に痛烈に残っている。申し上げておくが、私は無類の寄席ファンで、そこで噺家や漫才師が展開する政治風刺は一向に気にならない。どころか、寄席の彩りとして大好物なのだ。権力者は、いつの世も風刺諧謔の対象であり、それこそ庶民のひそかな楽しみである。

 問題は、太田氏のそれは、風刺諧謔を超えた面罵そのもののように私には思えたことである。いかな権力者であろうと、小選挙区落選が確定した甘利氏は、魯迅の言葉を借りれば「水に落ちた犬」である。その甘利氏に戦犯という言葉を投げかけ、ガハハハと爆笑しながら「ご愁傷様でした」と言い放って中継を終えるその態度は、太田氏の悪意の表れというよりは、かの天才が感知した、この政治家に対する視聴者の悪意へのエールに他ならないのではないか、私にはそう思えたのだ。

 数年前から、開票時に候補者を当惑させる鋭い質問をぶつけてその反応を興味本位で観察する選挙特番の企画が目立つ。そこには少なくとも昭和や平成の初期まで残っていた政治家への敬意は皆無であり、ここ10年ほど、国民の間に顕著になりつつある政治家への意識変化に裏付けられているもののように感ずるのである。

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