松本 創 維新の組織風土と候補者集めの実情

松本 創(ノンフィクションライター)
写真提供:photo AC
 日本維新の会は急速な党勢拡大の一方で、所属議員の不祥事が後を絶たず、女性候補者の少なさも指摘される。維新を長く取材し、『誰が「橋下徹」をつくったのか』の著書もあるノンフィクションライターが、党の実情を掘り下げる。
(『中央公論』2023年8月号より抜粋)

セクハラ府議、号令一下の除名

「除名やね」

 すでに政界を引退しているにもかかわらず、松井一郎前代表が発した一言で潮目が変わった。

 地域政党・大阪維新の会の「創業社長」と呼ばれる彼の判断がどれだけ党の方針を左右し、組織がいかにその手腕に依存してきたか、一連の動きは如実に物語っている。

 事の発端は5月17日、文春オンラインが同党大阪府議団代表に就任してまもない笹川理(おさむ)府議のパワハラ・セクハラ・ストーカー行為を報じたことだった。

 8年前の2015年、党の後輩で同じ選挙区だった女性大阪市議にLINEメッセージを執拗に送り、つきまとっていたという内容。本人は事実と認めて謝罪し、党執行部は口頭での厳重注意処分としたが、当事者間で決着済みと判断し、幹事長の横山英幸・大阪市長は「深く反省したうえで府議団を引っ張ってもらいたい」と代表続投を認めた。

 ところが翌週22日、性的関係を迫るLINEなどが続報で明らかになる。笹川は府議団代表を辞任し、同記事掲載の『週刊文春』が発売された25日夕方には松井が急遽、府庁で記者会見を開いた。8年前、トラブル対応に当たった幹事長として記者団の要請に応じたのである。

「今回、統一地方選挙において大阪維新の会の議員が非常に大きな負託をいただく中、議会を混乱させていることは、維新の会を創設し、運営してきた者として、府民の皆さんにおわびを申し上げます」

 松井は当時、女性市議の相談を受けて笹川を厳重注意したものの、詳細な内容までチェックしておらず、「対応に甘い部分があった」として冒頭で謝罪した。そして、「もしも8年前に内容を把握していたらどう対応したか」と記者に問われ、「除名」と即答したのだった。

 この松井発言を受けて大阪維新の会の対応は一転した。

 4日後の29日、笹川は離党届を提出するが党は受理せず、本人や関係者への聞き取りなど再調査を行ったうえ、6月3日の綱紀委員会で最も重い除名処分を決定。代表の吉村洋文・大阪府知事は「議員辞職するべきだ」と踏み込んだ。

 とはいえ、吉村自身が「初動が不適切だった」と認めた通り、対応が後手に回ったことは否めない。その背景にはハラスメント被害を深刻に受け止めず、むしろ加害者側に同情的な党内の空気があった。

 ちょうど松井の会見が始まる直前、私はある維新関係者と会っていた。維新の組織風土や議員の実情を取材するためだったが、この件に話が及ぶと、「8年前の話を今頃持ち出されて気の毒」「府議団代表になったことで足を引っ張られた」「女性市議にもいろいろ問題があったようだ」といった声が党内に多いと聞いた。別の関係者への取材でも、笹川の家族に同情し、被害者を責めるような反応が複数あった。

 根底には「政治の世界ではよくあること」と被害を矮小化して訴えを抑え込む意図や、「党の看板に傷が付く」と選挙や政治活動への影響を懸念する心理があるように感じた。4月の統一地方選で日本維新の会の首長と地方議員の数が774人と、改選前の1・7倍にもなった党勢急拡大の中、いらぬ騒ぎで水を差すなという、つまりは組織の論理である。

 こうした声を一掃するように松井は会見で厳しいルール作りを求め、自らの姿勢をこう語った。

「20年間政治家をやってきましたけど、自分より立場が上の人にはおかしいとかみついたことあるけど、自分より下の者に理不尽な形で行動したことは一切ない」

 この会見後の5月末、大阪維新の会は党所属の議員や首長ら特別党員約340人を対象にハラスメントの被害調査に乗り出した。その結果、14人から申告があったことを公表。弁護士などの専門家が詳しく聞き取り調査を行い、内容によっては処分を検討して、再発防止のマニュアル作りにも活かすという。

 松井の号令一下で維新のハラスメント対策が動き出したわけだが、皮肉なことに、こうして鶴の一声で組織が一斉に、一方向へ動き出す組織風土こそがハラスメントを生んだ原因であり、それを築いたのは他ならぬ松井自身だという指摘もある。

 躍進著しい維新とはどんな政党なのか。議員や関係者の証言から、組織の実像を探ってみたい。

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