山口真一 日本人の半数以上が騙される!? 生成AIの普及でウィズフェイク2.0時代に

山口真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授)
写真提供:photo AC
 生成AIの登場で深刻さを増す偽・誤情報問題。その現状と対策の方向性を、山口真一・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授が論じる。
(『中央公論』2023年12月号より抜粋)

 2016年は、米国大統領選挙で偽・誤情報が大々的に社会に拡散されたことにより、「偽・誤情報元年」と言われる。選挙前の3ヵ月間で、トランプ氏に有利な偽・誤情報が3000万回、クリントン氏に有利なものが760万回シェアされたという調査結果は、その現象を如実に示している。それは、情報の真偽を問わず、その拡散のスピードと範囲が、人々の意見や態度に決定的な影響を与える時代が確実に到来していることを示唆する。

 本稿では、フェイクニュースという定義の曖昧な言葉ではなく、偽・誤情報という表現を用い、その影響と対策について考察する。偽情報は、意図的に捏造または操作され、特定の目的のもとに流布される情報である。一方、誤情報は、意図せず誤ったまま伝えられ、拡散される情報である。

 新型コロナウイルス感染症が蔓延する中、偽・誤情報もまた猛威を振るった。世界保健機関(WHO)は、情報の氾濫を「Infodemic」と呼び、偽・誤情報の拡散が公衆衛生にも悪影響を及ぼしていることに警鐘を鳴らした。例えば、5G電波が新型コロナウイルスを拡散しているという根拠のない情報が、科学的な裏付けのないままに世界中で拡散され、欧米を中心に基地局を破壊する活動にまで発展した。

 日本国内も深刻な状況である。災害時のデマ、新型コロナウイルスや政治にまつわる情報など、多様な偽・誤情報がSNSやインターネット上で拡散している。例えば、安倍晋三首相(当時)が19年の台風の際に被災地を訪れた時の写真が、スタジオで撮影されたかのように捏造された画像は、日本国内だけでなく台湾でも拡散された。これに対し、台湾でもファクトチェックが行われ、情報の正確性が問われた。日本も対岸の火事でないばかりか、国境を越えて偽・誤情報が拡散する可能性があり、影響は国際的なものとなっている。

 インターネットとSNSの普及により、一人ひとりが情報発信者となり得る「人類総メディア時代」において、偽・誤情報の拡散は以前よりもはるかに大規模になっている。

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