演出家が必要だった岸田政権

竹中治堅(政策研究大学院大学教授)

閣僚人事によるイメージ

 にもかかわらず、なぜ評価が低いのか。閣僚人事から始めよう。岸田首相は派閥や年功序列に配慮しすぎであった。まず、閣僚を派閥のバランスに配慮して割り振った。よく見ると派閥の間に軽重をつけていたものの、多くの国民には伝統的な派閥重視と映ることになった。首相は年功序列にも気を配り、当選6回で入閣を果たしていない「待機組」から多くの閣僚を起用した。「待機組」からの登用は55年体制で成立した慣例である。小泉首相や安倍首相はこの慣行にはとらわれなかったので、岸田首相の人事は対照的であった。

 こうした人事は「『内向きの論理』が優先」されている(『毎日新聞』22年8月11日)、あるいは「派閥順送り」が際立っていると批判された(『朝日新聞』23年11月12日)。

 このため、人事を通じて新しい課題に挑もうとしているという印象を国民に与えることができなかった。さらに「待機組」閣僚の一部は失言や不祥事により、政権にダメージを与えてしまった。

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