自衛隊の女性登用の歴史
ここで、自衛隊の女性登用の歩みを辿ってみましょう(図1)。
警察予備隊と保安隊の時期には、女性たちが就くことのできる職種は看護職だけでした。女性の進出が本格化するのは自衛隊になって以降の1967年のことで、陸上自衛隊が女性を看護以外の一般職でも採用するようになります。具体的には、人事、総務、補給、会計、通信などの「女性らしい」業務です。
その後、バブル期の86年から91年にかけて女性の数が大きく増えました。この時期は民間の求人が多く、男性隊員のリクルートが難しくなっていたのです。そこで、男性ほど好景気の恩恵にあずかることのできない女性たちが代わりに吸い上げられていきました。86年に男女雇用機会均等法が施行されたことも追い風となり、職域も高射運用や航空管制などに広がっていきます。
次の画期は92年です。この年、防衛大学校に女性の入学が認められました。自衛隊のエリート幹部候補生を養成する防衛大学校に女性が進出したということは大きな意味を持ちます。女子学生が男子学生と4年間苦楽を共にし、同じ条件で一緒に過ごすようになったことは、幹部自衛官の感性を大きく変えていったと言えるでしょう。
防大の学生数は一学年480名で、うち女性の定員は100名(2023年度)です。関係者に聞くと、定員を定めておかないと合格者にはもっと女性が多くなるだろうと言います。そのような狭き門を潜り抜けて入ってくる女性が優秀なのは当然とも言えるでしょう。防大女子1期生は、イージス艦艦長になるなど、華々しい活躍をしている人も多く、しばしばテレビで紹介されています。
そして、先ほど述べた2000年の国連安保理決議1325号が、自衛隊の女性登用にも影響を与えました。この国際的な潮流と、15年以降、安倍首相(当時)が打ち出した女性活躍政策の影響は大きかったと思います。(談)
(続きは『中央公論』2022年9月号で)
2000年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。専門は社会学・ジェンダー研究。著書に『軍事組織とジェンダー─自衛隊の女性たち』、共編著に『シリーズ戦争と社会』(全5巻)など、新刊に『女性兵士という難問──ジェンダーから問う戦争・軍隊の社会学』がある。