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元自民党副総裁・大野伴睦の「懐刀」だった渡辺恒雄。証言者が語るその実像と戦後政治の舞台裏

権力の中枢を見た最後の証人 独占告白
渡辺氏は権謀術数の渦巻く政治の世界に飛び込み、元自民党副総裁・大野伴睦の懐刀となった(C)読売新聞社
読売新聞グループ本社代表取締役主筆である渡辺恒雄氏へのロングインタビューを元にしたノンフィクション『独占告白 渡辺恒雄~戦後政治はこうして作られた~』(新潮社)が刊行された。本書はNHKスペシャル「渡辺恒雄 戦争と政治~戦後日本の自画像~」(2020年8月9日放送)などを元に、番組をディレクターとして制作したNHKの安井浩一郎氏が書き下ろしたノンフィクションだ。戦後政治の「最後の目撃者」と言われる渡辺氏が語った、戦後日本の内幕とは。渡辺氏は、自民党党人派の大物である大野伴睦の番記者になってから、政界と強い繋がりを持つようになり ――。

※本稿は、『独占告白 渡辺恒雄~戦後政治はこうして作られた~』(著:安井浩一郎・新潮社)の一部を再編集したものです。

「義理と人情とやせがまん」党人派の大物・大野伴睦

1955年(昭和30年)に自由民主党が結党した頃、渡辺は、ある派閥の領袖の寵愛を得て、政治記者として一気に頭角を現していく。

 

その人物の遺墨が、主筆室の入り口に大切に飾られていた。「義理と人情とやせがまん」という政治家らしからぬ浪花節のような言葉が、掛け軸に豪快な筆致で墨痕鮮やかに揮毫されている。この書を渡辺に贈ったのは大野伴睦、自民党初代副総裁や衆議院議長などを歴任した重鎮で、40名以上を擁する有力派閥・大野派を率いる領袖だった。後に渡辺は大野を「欠点と長所、正直さと策謀、人の好さと怜悧さ、果断さと慎重さ、そうした両極端を同時に混在させた人物(※1)」と評した。その人となりを、渡辺は懐かしそうに語った。

 

「大野伴睦は本当におもしろい人だったからね、裏表全部知っているから。俺は幼い頃におやじを亡くしているから、大野伴睦というのは父親みたいな感じがしたね。向こうも、息子より可愛がってくれたからね」

大野伴睦は岐阜県谷合村(現山県市)の出身だ。立憲政友会の院外団活動を経て、東京市会議員から国会議員に転身した生粋の党人派である。「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人」の言葉を残したことでも有名だ。選挙区でもある地元の岐阜羽島駅前には、大野伴睦夫妻の勇壮な銅像が建っている。自身の生まれ年の干支である「寅」の小物や装飾品を収集していたことでも知られる。渡辺と共に写っている写真にも、虎の置物が数多く置かれている。大野は「義理と人情とやせがまん」の掛け軸の通り、人情味のある人柄で親しまれた。

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