八田真行 イーロン・マスクは一人ではない

八田真行(駿河台大学准教授)
写真提供:photo AC
 Twitterを買収し、名称をXと変更したことで耳目を集める、米国のイーロン・マスク氏。彼が浸かってきたシリコンバレーの思想に、近年新たな動きが見られると、八田真行・駿河台大学准教授は指摘する。
(『中央公論』2023年10月号より抜粋)

時代を象徴する大富豪

 電気自動車(テスラ)と宇宙開発(スペースX)。全く異なり、しかもかつてはあまり見込みがないと思われていた分野で起業して成功を収め、一代で世界一の大富豪となったイーロン・マスクは、その言動でも注目を集める存在だ。2022年にTwitter(現X)を買収したことで、知名度や影響力は良くも悪くも一般のレベルにまで達した。

 マスクの型破りな言動を、彼自身の一風変わった性格に帰するのは間違いではない。9月中旬に邦訳書が出版されるジャーナリストのウォルター・アイザックソンによる評伝は、これまで謎に包まれていたマスクのパーソナリティに光を当てるものとなるだろう。しかしアイザックソンがかつて取り上げたスティーブ・ジョブズもそうだったように、マスクは全く孤立した状態で登場したわけではない。彼はある「文化」の産物でもあり、その「考え方」を共有する人々がいる。だからこそ、彼は時代の象徴たりうるのである。本稿では、そうした彼の「考え方」とその功罪について論じてみたい。

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