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渡辺佑基 温暖化で痩せるホッキョクグマ、太るペンギン

渡辺佑基(国立極地研究所准教授)
普段は多くのペンギンが氷の割れ目に集まって潜水する(筆者撮影)
 近年、地球の温暖化で北極や南極の海氷が減っている。それは極地に暮らす野生動物へどのような影響を与えているのか。渡辺佑基・国立極地研究所准教授が論じる。
(『中央公論』2022年7月号より後半を抜粋)

痩せるホッキョクグマ

 ホッキョクグマは地球温暖化のシンボル的な存在である。一般的なイメージでは、近年の温暖化と海氷の減少によって生活の場が減り、絶滅の危機に瀕しているとされる。このイメージは、正鵠を射ているのだろうか。

 ひとつの種が絶滅の危機に瀕しているかどうかを判断する一番の基準は、個体数が減っているかどうかである。けれども、ホッキョクグマは広い範囲を単独あるいは親子で動き回るため、個体数の把握が難しい。ヘリコプターによる目視調査だけでなく、毎年まとまった数を捕獲し、個体を識別するための標識を取り付け、全体の個体数を見積もる調査も行われている。それでも情報は断片的で、私の知る限り、個体数が減少している証拠はまだない。

 だからといって、温暖化とホッキョクグマの生活が無関係であるわけではない。個々の健康状態を示す大事な指標が体重である。カナダのハドソン湾で長年にわたって行われてきた捕獲調査によると、雌の成獣の体重は、過去30年の間に平均して2割も減少した。ホッキョクグマは海氷の上を歩き、アザラシを探し、捕えて食べる。海氷の減少によって年々、狩りが難しくなり、十分な食べ物を口にできなくなった結果、体重が減っていると解釈できる。

 この解釈を裏付ける面白い研究例がある。アメリカの研究チームが、GPSやビデオカメラなどを組み込んだ特殊な首輪を野生のホッキョクグマに取り付けた。10日間ほど自由に行動させた後、再捕獲して機器を回収した。

 GPSのデータを確認すると、どのホッキョクグマも海氷の上を広範囲に動き回っていた。また、ビデオカメラの映像から、時折、生きたアザラシを捕えて食べる様子が確認できた。興味深かったのは個体差である。アザラシの狩りに成功したホッキョクグマは、体重を大幅に増やしていた。一方、アザラシにありつけなかった個体は、たった10日間で1割も体重を減らしていた。

 この結果が示すのは、ホッキョクグマという動物の特殊性である。クマの仲間で最も体が大きく、しかも広い範囲を常に動き回るため、エネルギーの消耗が激しい。脂肪たっぷりのアザラシを捕えることができなければ、たちまち体重が減ってしまう。ホッキョクグマは北極で進化し、北極に適応したスペシャリストであり、生きるための前提条件として、アザラシが定期的に手に入る環境を必要としている。近年の海氷の減少によって、アザラシの狩りが年々難しくなってきており、この前提条件が崩れつつある。

 個体数の減少を示す確固たる証拠こそないものの、ホッキョクグマが温暖化によって危機的な状況に陥っているのは事実だと思われる。

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