専門家の「責任」を果たせた一冊 <新書大賞2026>大賞受賞『カウンセリングとは何か』東畑開人氏インタビュー
専門家の「責任」を果たせた一冊
─受賞の報を受けてのお気持ちは。
うれしかったですね。担当編集者から「今電話できますか」と連絡が入ったときは何か悪いことでも起きたのかと思ったのですが(笑)、実際は受賞の報せで、「やった!」と。
新書は世界情勢や社会問題を扱う本がよく読まれる印象だったので、カウンセリングという日本社会に馴染みの薄い営みについての本で賞をいただけたことは、感無量です。人々が心に関心を持つ時代になったということなのでしょうか。渾身の一作を見える形で評価していただき、ほっとした面もあります。
僕にとって新書というと、大学時代、授業の空きコマに図書館へ行って新書の棚を眺め、自分の専門と関係のない本を読むのが、とても楽しかったんです。そのイメージは今も変わりません。かつて読んだ、網野善彦や阿部謹也の新書や『動物化するポストモダン』『はじめての構造主義』といった本を思い出します。手に取ると、まったく知らない分野のことも一つの世界として提示してくれている。好奇心が湧き、もっと勉強したいと思えたし、自分の専門分野についても異なる角度で考えられるようになりました。新書を読むとは異文化体験、まさに教養としての読書だったと思います。
自らの総決算となる本
─執筆の経緯を教えてください。
僕は毎年、オフィスで年に5回の通年授業のようなものを行っています。2024年は、専門家がカウンセリングとして行っていることを、一般向けに話してみようと考えました。その講義を基に、翌年執筆に入りました。
本書の執筆は僕史上、最も厳しい闘いでした。1月に書き始めてから6月まで。通常は朝に執筆して、日中は臨床をして、夕方以降は別のことをするのですが、本書は朝晩書き続けていました。やめようかと思ったことも何度もあったのですが、「一回休んだら二度と戻ってこられない」と思い、狂気の中で書いていました。もうこのまま小説家になってしまおうかと思ったほど異常な精神状態で、妥協なく極限までやり切りました。
本書は、カウンセリングの最初の一歩になるものにしたいと考えて、心理学を勉強する人だけでなく、困っている人たちがカウンセリングに触れるきっかけになる定番本を目指しました。注に語りかける形式を入れたり、豆知識をミニコラムに仕立てたりしたのも、さらなる学びへと誘いたかったからです。
(『中央公論』2026年3月号では、この後も、執筆にあたり意識した点、専門家としての考えや今後について、話を聞いた。)
「新書大賞2026」上位20冊までのランキングと、有識者47名の講評など詳細は、2026年2月10日発売の『中央公論』3月号に掲載されています。
特設ページでも上位20位までのランキングを掲載しています。
「新書大賞」特設ページ https://chuokoron.jp/shinsho_award/



