石川優実さんが#KuTooで訴えたいこと
この運動を始めた石川優実さんへのインタビュー(『中央公論』1月号掲載)の前半
部分をご紹介。
それが性暴力とは知らなかった
私は、高校を出てすぐに芸能の世界に入りました。そこで、「女の人は水着にならないとやっていけないよ」と言われて、芸能の仕事とはそういうものと信じてしまいました。それでグラビアのモデルを始めましたが、最初は水着でと説明されていたにもかかわらず、徐々に体を露出させるようにという要求が増えていき、それに加えて、セクハラや性暴力の被害に日常的にあうようになりました。でも、そのときはそれも仕方がないことなのか、と諦めて過ごしていました。
当時のマネージャーや出版社の担当者には、「君は顔がよくない」「売れていない」、だから「脱ぐしかない」と言われていました。これは、女性に自信をなくさせ、それしか道はないと思わせる、グラビア業界ではよくあるやり方です。だからグラビアをやっている女の子には自分に自信がない人がとても多い。今思えば、まさにパワハラの典型です。
二〇一七年に、ハリウッドで#MeToo運動が始まったときも、最初は、自分からは遠い世界のことだと思って見ていたんです。でも、その年の十二月にブロガーのはあちゅうさんが、過去にセクハラやパワハラを受けていたと告発した文章を読み、自分が受けていたのも、セクハラとパワハラなのだ、と気がつきました。同じ国で、年齢も近い人が告発したことで、初めて自分の被害と繋げることができたのです。
私は、かつての自分に起きた性被害についてブログ(note)に書きました。撮影現場で約束と違う露出を強要されたり、どんどん露出が増えていったり、性接待を強要されたりしたことです。自分が過去にされたことが、性暴力やセクハラだったと知った以上、黙っていられない、という気持ちでした。書きながら、もう、女優の仕事はできないだろうと覚悟しました。
私が行った#MeTooには、いろいろな反響がありました。その後自分が運動を始めた#KuTooと比べれば少なかったのですが、当時は、これだけ私の告発を聞いてくれる人がいた、と驚きました。フランスのメディアからの取材も受けました。ライターの小川たまかさんなどフェミニストの方たちが声をかけてくださって、書店などでのトークイベントに呼ばれるようになり、これを境につきあう人たちがガラッと変わりました。
私はグラビアアイドル時代から今までずっと同じツイッターアカウントを使っていますが、たぶん、フォロワーの最初の一万人のほとんどが男性だったと思います。でも、この頃から、グラビアアイドルとしてではなく、#MeTooで興味を持ってくれたフォロワーがどんどん増えていきました。同時に私がフォローする相手も変わっていきました。
なぜ女性はヒールなの?
この#MeTooの約一年後に、私は#KuToo運動を始めることになりました。きっかけは#MeTooのあと始めた葬儀のアルバイトでした。
私が登録していた葬儀専門の派遣会社には、女性のヒールは五センチから七センチを目安に、という服装規定がありました。たとえば、午前中に、告別式を三時間、夜に別のご家族のお通夜を三時間、合計六時間、火葬まで行くと、間に休憩はあるものの一日のうち八時間くらい立ちっぱなしで働くこともあります。私は足を痛めてしまったので、三センチぐらいのヒールにしていましたが、それでも常に痛みに苦しめられていました。
#MeTooしてからの私は、韓国のアクティビスト、イ・ミンギョンが書いた『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』などの書籍やインターネットからフェミニズムのことを学んで、社会にある性差別を考えるようになっていました。学ぶにつれて、最初は「足が痛いな」くらいだったヒールのことも、一年程たつうちに、規定がおかしいと思うようになっていきました。
葬儀の仕事は好きでした。でも、男性はヒールのない靴で働いているのに、なんで女性はヒールで、しかも足音を立てないようにしなきゃいけないのか、と考えるようになりました。たまたま、ある葬儀会社の社員の方に、なんで女の人って、寒くてセキュリティの甘い服を着なきゃいけないんだろうね、と言われて「確かに」と考え出したのもきっかけになっています。
葬儀の仕事は、年配の方を支えて歩いたり、お焼香の案内をするときにしゃがむことも多い。そう考えると、スカートにパンプスはこの仕事に向いている服装ではないですよね。それに葬儀は、外で仕事をすることも多いので、スカートだと冬はとても寒いんです。
そんなことが積み重なっていって、ある日ツイートをしました。
「私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたいと思ってるの。専門の時ホテルに泊まり込みで1ヶ月バイトしたのだけどパンプスで足がもうダメで、専門もやめた。なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう、男の人はぺたんこぐつなのに」(二〇一九年一月二十四日)
そのときは、このツイートが大きな運動になるとは思いもよりませんでした。その頃、私がツイッターで発信していたのは、一人で飲みに行ったら男の人に絡まれていやだったとか、日常的に起きる性差別的な体験への怒りなどあくまで個人的なことです。だから、このツイートも、決意を持ってというより、いつもの愚痴みたいな感じだったのです。
そうしたら反響がすごかった。それまでもセクハラの問題などのツイートで「いいね」がたくさんつくことはあったけれど、このヒールの問題はまたたくまに拡散されて、ツイッター上で広がっていきました。
〔「中央公論」2021年1月号より抜粋〕
1987年愛知県生まれ。18歳から芸能活動を開始。2017年グラビアアイドル時代に受けた性被害を告発し、19年には#KuToo運動を展開する。同年10月、英BBCにより世界の人々に影響を与えた「100 Women」に選出された。著書に『#KuToo:靴から考える本気のフェミニズム』。現在、責任編集を務めた『エトセトラVOL.4 女性運動とバックラッシュ』が発売中。