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笹子トンネル事故は悪夢のはじまり

東京オリンピックの突貫工事から50年
畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)×大石久和(財団法人国土技術研究センター理事長)

笹子だけじゃない 全国の道路が高齢化している

畑村 山梨県の中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故が起き、日本中を震撼させました。

大石 笹子トンネルは開通から三五年でしたが、この事故は、高度成長期に全国で建設が進められた道路などのインフラが老朽化している問題を改めて浮き彫りにしたと思います。
 建設から五〇年経過した道路、鉄道の橋脚やトンネルなどは抜本的な点検・補修が必要になる場合が多い。ですから我々管理者は「五〇年」を構造物の高齢化の一つの目安としています。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』ではありませんが、一九六四年の東京オリンピック開催前後の高度成長期に、この国は大急ぎでインフラを整備した経緯があります。

畑村 日本中の道路や鉄道が一気に高齢化の時期に入るということですね。

大石 そうです。日本には長さ二メートルを超える橋梁が七〇万橋あります。うち七割を市区町村が管理しています。実は七〇万橋のうち三〇万橋がいつ建設したか不明という、実にいい加減な状態です。
 それはさておき、建設年度が分かっているものだけをみても、二〇一二年の段階ですでに五〇年を超えた橋梁(橋長二メートル以上)が全体の一六%、計六万四〇〇〇橋もあります。一〇年後には全体の四〇%、二〇年後には六五%にあたる二六万橋が五〇年を経過します。
 ちなみに、現在、橋梁の平均年齢は三五年。一九五五年から七五年ごろまでの高度経済成長期に数多くの橋梁を造ったことが分かります。

畑村 「高齢化」により、通行止め、通行規制を行っている橋梁は増えているのですか?

大石 二〇一一年の段階で通行止め、通行規制中の橋梁は一八七四橋でしたが、二〇一二年には二〇一二橋と増加の一途をたどっています。
 同様にトンネルも老朽化しています。全国に一万本あり、平均年齢は三三年。市区町村が管理しているトンネル二三〇〇本だけを見れば平均年齢は四六年と突出しています。橋梁もトンネルも市区町村管理分について特別に申しあげるのは、市区町村には点検や補修をできる土木技術者、建築技術者が一人もいないケースが少なくないため、より深刻だからです。

首都高はゾッとする

畑村 僕が最も心配しているのは首都高速道路です。首都高こそまさにオリンピック開催に合わせて建設しています。京橋IC〜浜崎橋JCT(都心環状線)、浜崎橋JCT〜芝浦(1号羽田線)の区間は一九六二年完成ですから、まさに五〇年を過ぎている。
 僕は首都高はいつ壊れたって不思議はない、何が起こってもおかしくないと勝手に思っています。中央公論新社は京橋にありますが、みなさん、ぜひ京橋のあたりから首都高の橋脚を見上げてほしい。ゾッとするほどボロボロなんです。それなのに、みんなそんな現実を無視するかのように平気で車を走らせている。まもなく建設から五〇年を過ぎる箇所が増えてきます。怖いことがそろそろ起こりだしますよ。

大石 首都高は要注意です。というのも、首都高は都心環状線をはじめとして鋼板や形鋼を組み合わせて板状や箱状にして橋桁で支えている「ガーダー橋」が多いのですが、金属は疲労するということを考慮して設計する「疲労設計」の概念がなかった時代の構造物です。ですから早々に更新していく必要があるんです。

畑村 鉄で造った構造物は怖いですよね。

〔『中央公論』2013年4月号より〕