五輪は開催できるのか? 組織委事務総長に迫る
IOCとは「自慢できるほど」良好な関係
─かねてよりオリンピックはスポンサー企業が関わる「商業主義」を批判されてきました。この点も、IOC(国際オリンピック委員会)も含めてオリンピックを根源から考え直す気運があるのでしょうか。
IOCも、我々のそういう考え方を共有していると思います。ただし、スポンサーの財政的支援を得ることは、実は重大な意味があることを忘れてはいけません。さかのぼると一九七六年のモントリオール大会は大赤字に陥りました。八四年のロサンゼルス大会でテレビ放映権をはじめとする独占的なスポンサーシップが発案され、ようやく財政が安定した。コロンブスの卵のような発見です。
何事にしろ、財政問題は存続の基盤なのです。特に私が財政をやってきたから言うわけじゃありませんが、財政がしっかりしていなければ、その団体そのものがしっかりしてないと言っていい。
今、税金を投入してオリンピックを開催するのは極力避けるべきだという共通認識があると思いますが、他方で商業主義の行きすぎも問題となっており、両者のバランスが問われています。
国や東京都は、競技会場をつくるために税金を使います。例えば新国立競技場の整備費用は約一五〇〇億円ですが、これは国民、都民が長期にわたって利用するレガシーになるものです。しかし、オリンピックのためだけに必要な仮設の座席や設備、大会の運営に必要な財源はレガシーになりませんから、スポンサーから募ります。このように商業化にも合理性はあるのです。もちろん行きすぎた商業主義はいけませんが。
─大会経費をめぐる交渉など、IOCとの関係はどのようなものなのですか。
経費節減については、いくつか我々から難しい提案をしましたが、案外受け入れていただいています。一つは開会式前に恒例だったIOC総会の前夜祭という一大イベントをやめることにしました。また、IOC委員の配偶者には入国をご遠慮いただくことも決まりました。これは欧米の夫婦同伴が常識という感覚からすると、案外大きな決断なのです。
我々は一所懸命に準備しているという自負心がありますが、バッハ会長もコーツさん(東京大会のIOC調整委員会委員長。IOC副会長)も、日本は信頼できる、完璧に準備してくれている、と評価をしてくれています。お互いの信頼関係は非常に強固なものがあって、組織委の七年間で最も自慢できることの一つです。
(『中央公論』2021年6月号より一部抜粋)
1943年埼玉県生まれ。東京大学法学部卒業。大蔵省に入省後、主計局などを経て2000年大蔵事務次官、01年財務事務次官。03年より日本銀行副総裁。08年より東京大学先端科学技術研究センター客員教授、大和総研理事長(現在名誉理事)。14年1月、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会事務総長に就任。
【聞き手】
◆岸 宣仁〔きし のぶひと〕
経済ジャーナリスト