大空幸星 「豊かさはいらない」と社会に声をあげる若者は1割――「親ガチャ」をカジュアルに使うことへの違和感
(『中央公論』2022年3月号より抜粋)
- 余裕のある1割の声だけを歓迎してはいけない
- 親への憎悪が薄らいだ言葉
余裕のある1割の声だけを歓迎してはいけない
――今、日本でも経済格差の広がりが問題視されています。「あなたのいばしょ」への相談にも、格差や出自に問題の要因があるものが多いでしょうか。
人の心の苦しみと、経済格差はあまり関係ないと僕は考えています。我々のところへ相談に来る方には、かなり裕福な家庭の方も高学歴な方も多くいます。むしろ若い人の中には、裕福だけれど親に人生のレールを敷かれて苦しんでいる人、親の方針との齟齬に悩んでいる人が少なくありません。実際、引きこもりには高学歴の人が多いというデータもあります。
ただ、そうはいってもお金の余裕は心の余裕につながります。当然、経済格差を放置していいわけではなく、しっかりとした対策が必要です。
最近、資本主義を見直す動きが出てきて、岸田文雄首相も「新しい資本主義」を掲げています。僕も再分配政策がちゃんと機能するように改善していくべきだと思います。一方で、マスコミの人たちが若い世代が豊かさを求めていないかのように括るのは、間違っていると思います。
SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の活動以降でしょうか、確かに今、若い世代でデモや政治に声を上げる人が増えているように見えるかもしれません。そして僕も、「『現代用語の基礎知識』選 2021ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「Z世代」が選ばれた際、その代表として表彰式にも出席しました。けれど、Z世代で社会に声を上げる余裕がある人は1割くらいしかいないと思っています。
昨年秋の衆議院選挙のときも、「選挙に行こう」と声を上げた若者がたくさんいました。気候変動の問題について提起している学生もいます。僕の友達にもいますが、みんないい人たちです。しかしその多くが、高学歴で経済的に余裕のある人たちでもあります。
気候変動への対策を訴えるデモで、「これ以上の豊かさはいらない」と発言した学生がいましたが、まさにその典型です。たしかにあなたにはこれ以上の豊かさは必要ないかもしれない。あなたは親に学費を払ってもらって平日にデモに参加できるのかもしれないけれど、なかには、自分の体を売って学費を稼いでいる人もいる。この日本にも、日々食べるものにも困っている人たちがたくさんいることを、恵まれた彼ら彼女らに伝えたいです。
僕だって気候変動の問題を軽視しているわけじゃありません。重要な問題です。でも果たして"我々"には、日本にまだたくさんある貧困が見えているのでしょうか。いま僕はこうして取材を受け、声を上げることができる。だからあえて"我々"という言葉を使いましたが、余裕のある人たちは、余裕のない人たちの存在にすら気づいていない。そのことに自覚的であるべきだと思います。
若者の政治参加は重要なことです。一方で、生活に余裕がある人でなければ社会に関心は向かないし、政治参加もできません。もし、大人たちから歓迎される若者の声が、余裕のある1割の声でしかないとしたら、これこそが「分断」で、大きな問題だと思います。