御厨 貴×酒井順子×古市憲寿「昭和100年、三世代から見た遺産」
御厨 貴(東京大学先端科学技術研究センターフェロー)×酒井順子(エッセイスト)×古市憲寿(社会学者・作家)
(『中央公論』2025年1月号より抜粋)
それぞれの昭和、それぞれの記憶
――2025年は昭和元年から100年を迎えます。最近では「昭和」は家父長制や性差別、金権政治や暴力容認など古臭さの象徴とされる一方で、ノスタルジーの対象ともなっています。世代の異なるお三方から見た昭和という時代を語り合っていただければと思います。
御厨 僕が生まれた昭和26(1951)年は、サンフランシスコ平和条約締結の年です。その38年後に昭和天皇が崩御していますから、国際社会への復帰から改元まで、約40年は昭和を体験したことになります。
酒井 私は出生数の少なかった昭和41(1966)年に生まれました。気性が激しいといわれる丙午(ひのえうま)の女です(笑)。ビートルズ来日公演は語り草ですが、ジャン=ポール・サルトルと共に来日した、哲学者でフェミニストのシモーヌ・ド・ボーヴォワールが、若い女性たちにロックスターさながらの熱狂で迎えられた年でもあります。記憶にある最初の社会的事件は、1974(昭和49)年の元日本軍兵士の小野田寛郎さん帰還ですね。
古市 僕が生まれた昭和60(1985)年は日本航空123便墜落事故の年で、物心がついてから見た事故映像の記憶は鮮明にあるのですが、リアルタイムで体験した記憶はほとんど平成の出来事です。昭和の出来事は後追いで見た映像の記憶がほとんどだと思います。
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