西 和彦 大学中退の私が工科大学を創設する理由

西和彦(日本先端工科大学〔仮称〕設置準備委員会準備委員長)

エンジニア不足を解消したい

 日本のエンジニア不足が深刻なので、これをなんとかできないかという思いもありました。日本にはコンピュータを使う人はいても、作る人がいない。ソフトを作る人は比較的多いのですが、ハードを作ることができる人はほとんどいません。半導体の世界でも同じような状況です。このままでは世界の最先端からどんどん遅れてしまうのではないか。そんな危機感を持っていました。

 エンジニアが増えない理由は、大学で学生に教えることができる教員が少ないことだと思います。半導体の開発、プログラミングなど、テクノロジーの進化は日進月歩ですが、日本の大学の教授は実務経験に乏しい人も多く、最先端のことを学生に教えられない。

 それで、エンジニアだった自分が本気で学生を教えてみようと考えるようになり、生まれて初めて職務経歴書を書いて東京大学に職を求めました。その結果、2017年から5年間、東大工学系研究科機械工学専攻のIoTメディアラボラトリーのディレクターとして本郷の学部生と大学院生に教えることになりました。

 東大で教えて分かったのは、東大生はみんな本当によくできる良い子ばかりだということ。しかし、その東大工学部に入るためには、理科だけでなく、国語や歴史などの文系科目も勉強しなくてはいけません。国語や歴史ができなくても、理科なら東大工学部の学生並みの学力を持つ人はいるはずではないかと気づきました。

 文系の学問が不用だと言っているのではありません。私が自信を持って言えるのは、受験勉強とは、大学に入るためだけの勉強で、社会に出たら何の役にも立たないということです。ジムに行って筋肉を鍛えるのと同じで、「受験勉強で脳を鍛えてきました!」というだけの世界。あまり意味がないんです。大学に入って行う勉強とは繋がりません。

 そこで理科や数学は得意だけれど国語や歴史は苦手という生徒を全国から集めて教育したら、東大工学部卒業と同等レベルのエンジニアを育てることができ、多少なりとも日本のエンジニア不足の解消に繋がるのではないか、と考えたのです。これが大学を創ろうと思ったいちばんの理由です。単なるパソコンオタクでは困るので、大学入学共通テストである程度の点数を取った生徒を集めようと思います。そして何よりコンピュータが好きで面白いと思っている子を探して、しっかり教育する。そんな大学を目指しています。

 そもそも私の家は、祖母が100年前に神戸で裁縫学校を始め、私で3世代目(現在は、須磨学園中学校・高等学校)。2003年から私は学園長をやっています。もちろん、これから取り組む大学経営と中高一貫校の経営は全く違いますけれど。


(中略)

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