山本理顕「プリツカー賞受賞者が語る、日本の建築と能登復興」

山本理顕(建築家)

能登半島の復興に向けて

 ところで先日、私は能登半島地震で甚大な被害を受けた輪島市、珠洲市を訪問しました。復興のために建築家としてどういうお手伝いをすればいいかを探るためです。周知のとおり、多くの家屋は倒壊したまま、瓦礫の撤去すら進んでいない状態でした。

 まず取り組むべきは、産業の再生でしょう。輪島市は、輪島塗をはじめとして伝統工芸が盛んな地域です。海の幸も豊かですが、その料理の出し方も器などの伝統工芸と一体となり、江戸前とも京都とも違う独特の文化を築いてきました。それが地域経済を支える収入源にもなっています。

 ところがご多分に漏れず、ここも人口減少と高齢化が進行し、伝統工芸を担う職人は減りつつありました。さらに震災によって工房が壊滅的な打撃を受け、存続すら危うくなっています。再建が急務であることは明らかです。同じく、焼失した朝市通りの復興も欠かせません。

 そのためには、人材と資金が必要です。私は、行政の内側にいる知り合いを介し、国土交通省に復興資金をもっと出してもらいたいとお願いしました。また日本建築家協会に対しても、こういうときこそ積極的に人材確保に動くべきだと訴えました。ボランティアで現地に駆けつけた建築家も多数います。彼らを資金面からも応援してほしい。しかしいずれも、いい返事はもらえていません。

 特に建築家協会については、先に述べた国家と深くつながる弊害が如実に現れています。そもそも資金をプールしていないからまったく自主的に動けないわけです。

 工房の復活のためには大阪万博協会からの支援がもっとも効果的です。大阪市民の協力を得て能登の伝統工芸を販売する会場をつくるのです。万博については、不明瞭なビジョンや「木造リング」、それに終了後のIR(カジノを含む統合型リゾート)化などに対して、多くの批判が噴出していますが、世界中からお客様を招くなら、その機会を利用しない手はありません。開催まであと半年強となりましたが、まだ間に合うはずです。能登の人たちの「助けて」という声が聞こえないのでしょうか。日本国際博覧会協会の方々も、また大阪市民の方々も、救いの手を差し伸べていただければと思います。

(続きは『中央公論』2024年9号で)

構成:島田栄昭 撮影:言美 歩

中央公論 2024年9月号
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山本理顕(建築家)
〔やまもとりけん〕
1945年北京生まれ。日本大学理工学部卒業。東京藝術大学大学院修了。73年株式会社山本理顕設計工場設立。現在、神奈川大学客員教授、横浜国立大学名誉教授、日本大学名誉教授。主な建築作品に、横須賀美術館、パンギョ・ハウジングなど。著書に『地域社会圏主義』『権力の空間/空間の権力』『脱住宅』など。
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