コロナ禍前後で学力に変化は見られたか?
松岡亮二(龍谷大学社会学部准教授)
(『中央公論』2024年10月号より抜粋)
- 教育格差の定義と概要
- コロナ禍前後の変化
教育格差の定義と概要
教育格差とは、出身家庭の社会経済的地位(SES:Socio-economic status)や出身地域といった子ども本人に変更できない初期条件(「生まれ」)によって、学力や学歴といった教育の結果に差がある傾向を意味する。SESは保護者(以下、親)の職業・学歴、世帯所得、家庭の蔵書数、その他の文化的所有物・行動などを含む社会的、経済的、文化的な特性を指す。
SESの代理指標として父親の最終学歴を用いて検証すると、戦後に育ったすべての世代において親子の教育達成に一定の関連が見られる。この傾向は父親の学歴以外の様々な特性を考慮しても確認できる。大学進学率の上昇を含む急激な社会の変化があった一方で、親の学歴を含む出身家庭のSESによって子の最終学歴に差がある傾向は戦後日本社会に一貫して存在してきたのである。世代によって多少の変動はあるが、近年だけの傾向ではないし、貧困層に限定された現象でもない。
戦後日本社会は建前として「生まれ」ではなく本人の能力と努力次第で学歴や職業的地位が決まることになっているが、出身家庭のSESや出身地域が学歴という「身分」に変換されることを通じて職業達成を左右している実態がある。
もっとも、あくまで傾向であるので例外を見つけることは難しくないが、不利な「生まれ」から「成功」した事例を何百と並べたところで、1学年100万人を超える社会全体を対象としたデータが示す「緩やかな身分社会」という傾向を否定することはできない。出身家庭のSESによる格差の程度は他の先進諸国と比べると平均的で、特に大きくも小さくもない。日本は「生まれ」によって人生の可能性が制限される「凡庸な教育格差社会」である。
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