潜入ルポ スポットワークの光と影

若月澪子(ジャーナリスト、主婦ギグワーカー)
写真:stock.adobe.com

「初心者OK」1日限りの仕事

 人手不足の声が日本中であがる中、「スポットワーク(スキマバイト)」という働き方が注目を集めている。スポットワークとは、ありていに言えば「日雇い」である。スマートフォンのアプリを通じて、18歳以上の男女であれば誰でも、自分の融通が利く隙間時間に仕事にエントリーできるという新しい働き方だ。

 これまで多くの現場では、シニアや女性、外国籍の人を投入することで人手不足に対応してきた。しかしそれだけでは支えきれなくなったところに、労働力を補充する次なる手段として、スポットワークに白羽の矢が立っている。

 筆者は3年ほど前から、副業やスポットワークに関する取材をしており、月に数回は実際の労働現場に「潜入」する。この日も、筆者は都内の自宅から徒歩圏内にあるドラッグストアで、1日限りのスポットワークに入ろうとしていた。

 それは首都圏でチェーン展開しているドラッグストアが募集していた「品出しや簡単な清掃」「初心者OK」「13〜16時」「時給1200円、交通費500円」というスポットワークで、求人アプリ「タイミー」で見つけた。筆者は「品出し」という仕事をしたことは人生で一度もなかったが、スーパーやコンビニなどの小売店で行う作業と同じだろうとはなんとなく想像がつく。

 開始時間の10分ほど前に店に着き、白衣を着た薬剤師の店員に「タイミーから来ました」と告げた。すぐに店のバックヤードに案内され、紙に印刷されたQRコードを渡される。これをスマートフォンのタイミーのアプリに読み込ませると「出勤完了」。店のロゴ入りの「スタッフ」と大きく書かれたネームストラップを首にかけると、客からは店員に見えるだろう。売り場に行くと、「管理栄養士」と書かれたネームプレートをつけた女性店員から、仕事内容を告げられた。

「『前出し』ってわかりますか? 商品が売れて空いたスペースに、後ろの商品を前に出し、お客さまから商品がよく見えるようにする作業です。商品のラベルが表に来るように並べてください」

 彼女は毎日のように同じ説明をスポットワーカーに繰り返しているのか、とても面倒くさそうに話す。店員との会話はこの時だけ。その後、筆者は命じられた通り、店内の商品棚をパトロールしながら、棚の奥にもぐった洗剤、消毒液、ハンドクリーム、シャンプー、白髪染め、赤ちゃんの粉ミルクや介護用のおむつを、ひたすら棚の最前列に並べ続けた。この「前出し」が売り上げにどれくらい効果があるのか、どの商品がどれくらい人気なのかなどはまったくもって不明。部分的な作業を行うだけなので、仕事の全体像は見えない。

 この日は平日で、筆者のほかに2人のスポットワーカーが働いていた。いずれも30代くらいの男性で、平日が休みなのだろうか。それぞれ商品のホコリを取る仕事と、床のモップ掛けをする仕事を仰せつかっている。この店では業務を細分化し、教育が不要で誰でもできる仕事を切り出し、スポットワーカーに割り当てているのだろう。これによって人手不足の解消、人件費の削減、さらに業務の効率化もできているに違いない。

 ただしスポットワーカーからすると、こうした働き方はただ時間をお金に変えている「だけ」という印象は拭えない。売り上げに貢献しようという気持ちも湧かず、スキルや知識が身に付くこともないから、やりがいも感じない。時間になると再びQRコードを読み込んで勤務終了。口座にはすぐにバイト代が入金されていた。これが、今話題のスポットワークの一連の流れである。

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