潜入ルポ スポットワークの光と影

若月澪子(ジャーナリスト、主婦ギグワーカー)

スポットワークアプリの登録者数は2200万人に

 終身雇用の崩壊、実質賃金の低下、年金不安、物価高などさまざまな理由から、本業以外の仕事をする人はこの10年で確実に増えている。もちろんそれはインターネットを通じ、不特定多数の仕事と個人をつなぐ「プラットフォーム」の存在も大きい。

 まず、2016年にアメリカから上陸したフードデリバリーの「ウーバーイーツ」がその走りだ。スマートフォンのアプリを通じて自由な時間に仕事の発注を受ける働き方は「ギグワーク」と呼ばれ、労働者は発注側と雇用関係を結ばないフリーランスとして働く。今、フードデリバリーの配達員は日本に30万人いると言われ、多くが在宅勤務の空き時間や休日などを利用して稼働している。アマゾンの配達員なども、ギグワークの一つだ。

 こうした中で18年、日本政府は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表、企業や個人に副業推進をアナウンスした。国としてはサラリーマンが副業をすることで、年金不安の解消に加え、イノベーションの起爆剤になると考えたようである。

 同じ年、スポットワークのプラットフォームであるタイミーが、サービスを開始した。これによってスポットで働くという働き方が、フードデリバリーに限らず、さまざまな業種へと拡大していく。今やスポットワークアプリの登録者数は、業界全体で約2200万人にのぼると言われている(24年5月時点)。

 スポットワークを掲載する求人アプリは、業界最大手のタイミーをはじめ、「シェアフル」「メルカリハロ」などが知られている。1回2〜6時間程度の短時間の仕事が掲載されており、アプリ上に本人確認書類をアップロードし、報酬の受取方法を入力すれば、誰でも「ワーカー」として登録ができる。仕事の応募には、面接も履歴書も必要ない。


(『中央公論』4月号では、この後もスポットワークの現場に潜入することで見えた実態、その光と影の両面を活写する。)

中央公論 2025年4月号
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若月澪子(ジャーナリスト、主婦ギグワーカー)
〔わかつきれいこ〕
1975年生まれ。大学卒業後、NHKのローカル放送のキャスター、ディレクターとして生活情報などを担当。結婚退職後に自殺予防団体の電話相談ボランティアを経験。育児のかたわらウェブライターとして借金苦・終活・副業に関する取材・執筆を行う。ギグワーカーとしていろいろな仕事を体験中。著書に『副業おじさん』がある。
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