ネットが可能にした新しい自殺対策
ネットの普及は、人類にこれまでにないタイプの自殺対策を実施することも可能にした。ネットによって、人類史上初めてこれほど多くの「死にたい」思いが可視化されたわけだが、それは、ネットを介した自殺予防のためのハイリスク・アプローチ(自殺のリスクの高い人を早期に発見し、支援を提供し、継続的に見守っていく自殺予防手法)が実施される素地となった。
例えば、筆者も関わっているNPO法人OVA(オーヴァ)では、ネット上の検索連動型広告(例えばGoogle広告)を用いて自殺予防のためのハイリスク・アプローチ、通称「インターネット・ゲートキーパー」を実施している。インターネット・ゲートキーパーとは、「死にたい」「自殺方法」といった自殺関連語のウェブ検索がなされた際に相談窓口の広告を出し、無料で対人支援の専門職(公認心理師、精神保健福祉士など)が相談を受けた上で、相談者の抱える問題や自殺のリスクに関する評価を行い、適切な対人支援の場へとつないでいく活動である。この活動によって、約4割に「これまでに相談したことのない他者に相談することができた」などのポジティブな変化が生じ、約4週間後には統計的に有意に自殺念慮が低減していることが、これまでの研究から明らかになっている(末木、2019:Sueki et al., 2022)。