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飯田泰之 再ブーム『ルワンダ中央銀行総裁日記』を読み解く

飯田泰之(明治大学准教授)

スタートアップの物語

 一方、現代においては経済・社会の多くの側面に達成感というよりは停滞感が生じている。(悪い意味で)日本または世界の経済は一種の極相状態にあるという感覚だ。

 ビジネスモデルが一通り完成してしまい、もはや何も変わらないという業界も少なくないだろう。遠く高度成長やバブル期と比較するまでもなく、二〇〇〇年代前半と比べてもその色彩は強い。

 リーマンショック以前までは、これからウェブとIT技術によって世界が変わるという不思議な高揚感があった。加えて、ネットの普及はこれまでの現実の社会でできないようなコミュニケーションを生み出して、それによって世の中が動くという期待感があった。しかし、その多くは幻想だった。

 異世界転生モノの流行の理由は、現在の変わらない社会、経済の中で、他の世界を見てみたい、あるいは、自分が仕事として一通りこなしてきたことを誰かに伝えることで、感謝される機会を持ちたいという願望である。

 中でも、スタートアップの物語を含む作品の人気が高い。地域を活性化したい、どこにもない店を始めたいという願望を持つ者は多いだろう。しかし、現実の社会ではそううまくは事は運ばない。『ルワンダ』が人気を集めるのは、その代替として、六〇年代のルワンダという地域で国そのもののスタートアップを追体験できるからなのではないか。

 一つ注意しなければならないのが、服部氏の説明は決して親切ではないことだ。意外とわかりにくく、ある程度、経済がわかっている人向けに書かれている感じがする。七二年刊行の『ルワンダ』は、現代の新書ほど入門者向けに書かれていない。もっとも、それがまた異世界感を出しているのかもしれないが。

 

(『中央公論』2021年6月号より一部抜粋)

飯田泰之(明治大学准教授)
〔いいだやすゆき〕
1975年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専門はマクロ経済学、経済政策。『ゼロから学ぶ経済政策日本を幸福にする経済政策のつくり方』『日本史に学ぶマネーの論理』、共著に『地域再生の失敗学』など著書多数。
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