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YOASOBI、あいみょん――ネットが生み出す才能とメガヒット 柴那典

柴那典(ライター、編集者、音楽ジャーナリスト)
「歌は世につれ、世は歌につれ」と言われるが、Jポップをめぐる現状を、音楽ジャーナリストの柴氏は「CD未リリースの楽曲が流行歌として一世を風靡するようになってきている」と考察する。その背景には何があるのだろうか。(『中央公論』2021年7月号より抜粋)

紅白がテレビでの初歌唱

 知らない歌が、いつの間にか流行っている。曲名もアーティスト名も聞いたことがなかったのに、どこかで聴いたフレーズが何故か耳から離れなくなってしまう。最近になって、そういう体験をした人は多いのではないだろうか。

 コロナ禍で大きな逆風の最中にある音楽業界。しかし、実はここ最近になって、世代交代の波が訪れ、新たなヒット曲が続々と生まれている。アイドルグループが握手会などの特典商法でファンに複数枚のCDを売ることが通例になり、ミリオンセラーが続出しても「何がヒットしているのかわからない」と言われていたのが数年前のことだ。しかし、今はCD未リリースの楽曲が流行歌として一世を風靡するようになってきている。

 たとえばその代表が、昨年の「NHK紅白歌合戦」に出場したシンガーソングライター・瑛人の「香水」だ。「君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ」という印象的なフレーズを持つこの曲は、二〇二〇年の春から夏にかけて本人や家族も驚くような現象を巻き起こした。曲を発表した当時、彼はレコード会社にも芸能事務所にも所属していない。地元・横浜のハンバーガーショップでアルバイトをしながら数十人の前で歌っていた彼は、いつの間にか全国区の存在になっていた。

 同じく昨年の紅白に出演したYOASOBIも、ポピュラー音楽の新しい時代を象徴するグループと言っていいだろう。「小説を音楽にする」というコンセプトで生まれた、Ayaseとikuraの男女二人組。一九年末に発表したデビュー曲「夜に駆ける」は、紅白がテレビでの初歌唱。YouTubeに公開されたミュージックビデオが徐々に話題を呼び、二〇年のナンバーワンヒットとなった。

 こうした状況はいかにして生まれたのか。ポピュラー音楽の世界に何が起こっているのか。"令和の流行歌"がどのようにして生まれているのか、解説したい。

 ポイントは三つある。一つは、CDでも、ダウンロード配信でもなく、聴き放題のサブスクリプション(定額制)の音楽ストリーミングサービスが普及してきたこと。変化の起点になったのは一五年だ。この年にApple MusicやLINE MUSICなどIT企業大手がサービスを開始。翌一六年には世界最大級のストリーミングサービスであるSpotifyが日本上陸を果たし、状況が整備された。当初は国内の人気アーティストの楽曲は提供されておらず洋楽が中心だったが、一七年に宇多田ヒカルやDREAMS COME TRUE、一八年にMr.Childrenや松任谷由実、一九年にサザンオールスターズや嵐など、数々の大物アーティストがストリーミングに楽曲を解禁。日本レコード協会が発表するストリーミングの売上額も一五年の一二四億円から二〇年は五八九億円へと拡大した。

 二つ目のポイントは、こうした状況の変化を受けて、CD時代に代わるストリーミング時代の新たな「ヒットの基準」が生まれてきた、ということだ。かつては「ミリオンヒット」という言葉が象徴するように、一〇〇万枚というCD売上の数字がヒット曲の一つの目安となっていた。しかし今は、一億回というストリーミング総再生回数の数字がその目安となっている。こうしたサブスク型のストリーミングサービスでは、ユーザーは月額一〇〇〇円程度の料金を支払い、それが楽曲の再生回数に応じてアーティスト側に分配される。すなわち、ストリーミングサービスでの再生回数の多さはアーティストの収益にも直結するわけである。

 ヒット曲の広まり方も変わった。ストリーミングサービスでは、一人が同じ曲を何度も聴くことが一般的だ。「売れた枚数」を基準にしたヒット曲が発売日にピークを迎えてその後は徐々に下がっていくのに対し、「聴かれた回数」を基準にしたヒット曲は、リリース日から数ヵ月をかけて徐々に広まるロングヒットの形をとることが多い。

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