「SLAM DUNK」が中国を席巻したのも今は昔。北京大生が「日本アニメは衰退」と書くのは必然だ

北京大学准教授が伝える「中国人の日本観」(前編)
古市雅子(北京大学准教授)

中国で大きな影響力を持った日本のオタク文化

そこで人気を得たのが、日本のアニメである。さらにインターネットをプラットフォームにして、イラストや小説などを始めとする二次創作が盛んになった。また、単に作品を見るだけではなく、自分も作品やキャラクターに積極的に関わっていく「歌ってみた」「踊ってみた」など日本の「オタク文化」も同時に伝わった。インターネットに接する環境と時間の余裕、日本のコンテンツについて素養のあった大学生を中心に、再び日本アニメが盛り上がったのである。

中国にネット文化が現れ、盛り上がったのがネットスラングだ。その多くが香港映画か日本アニメ由来で、中でも、ある大学生が日本の深夜放送アニメ「ギャグマンガ日和」を中国語に勝手に吹き替えたものが爆発的な人気となった。そこから生まれた「給力」、今で言う「いいね」に近いニュアンスを表す言葉が一世を風靡した。

ちょうど2010年のサッカー・ワールドカップと時期が重なり、ネットを通して一つの番組を不特定多数の人が時間を共有しながら視聴する体験の広がりと共に、「給力」が日常生活にまで浸透した。バラエティ番組などでも頻繁に使われ、ついには共産党の機関紙『人民日報』が見出しに使用するに至って、当局から「公共のメディアでネットスラングを使わないように」と注意喚起されたほどである。

また日本語の「オタク」が、中国では「御宅」と漢字表記になってネットスラングとして使用され、今では「宅」という漢字は「外に出ず家にこもること」という意味の言葉としてすっかり定着した。今でもニュースなどで「受疫情影■(■はくちへんに向)、去年中国人都宅在家了」(コロナ禍のせいで昨年中国人はみんな「引きこもり」になった)などのように、様々なところで使われている。日本のオタク文化が、インターネットという新しいメディアのインパクトを借りて大きな影響力を持つにいたったのである。

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