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権容奭 Netflixオリジナルドラマ「イカゲーム」を生んだ韓国のソフトパワー

BTSに続く世界的大ヒット!?
権容奭(一橋大学准教授)
 韓国ドラマ「イカゲーム」をご存じだろうか? ドラマを見ていなくても、緑のジャージやピンクのつなぎのコスプレを見たことをある方も多いのでは。全世界を席巻したこの作品を、東アジア国際関係史が専門で日韓のポップカルチャーにも詳しい権容奭(クォン・ヨンソク)一橋大学准教授が読み解く。
(『中央公論』2022年1月号より抜粋)

 もし、世界流行語大賞があれば、2021年は「イカゲーム(Squid Game)」で決まりだ! 456人の参加者が優勝賞金456億ウォン(約43億円)をかけてサバイバルゲームを行うこの韓国ドラマは、Netflixで世界の1億4200万以上の世帯が視聴、歴代視聴記録を更新し、YouTubeでの関連映像クリック数も170億回を超えた。

 世界中で、本作に登場する韓国の子どもの遊びがブームとなり、ハロウィンでは、ゲーム参加者の着る緑のジャージや運営側の制服であるピンクのつなぎがコスプレの定番となった。韓国観光公社がニューヨークで行った、本作の遊びを体験できるイベントでは、80人の枠に約3000人の応募が殺到した。

「韓国モノ」は見ないという方には、米国の人気女優ドリュー・バリモアがテレビ番組で言った次の言葉を贈ろう。「『イカゲーム』はグローバルな現象です。『イカゲーム』を見るのは私たち市民の義務です!」。
(この原稿にはネタバレを含みます)

最初は低かった韓国での関心

 世界的現象となった「イカゲーム」だが、Netflixオリジナルということもあり、公開当初、韓国での関心は低かった。主演は映画『新しき世界』『観相師』などの演技で定評があるイ・ジョンジェ。その彼がクールなイメージを捨て「ダメ男」に変身したことが唯一の話題だった。そもそも「イカ(オジンオ)ゲーム」(いまでは誰もやらなくなった韓国の遊び)というふざけたタイトルとデスゲームというジャンルで世界一になるとは誰も想像しなかった。

 だが、思い出してほしい。いまや世界的アーティストのBTSだって韓国名は「防弾少年団」で、最初から世界を意識したわけではなかった。しかし状況は変わった。アカデミー賞受賞の『パラサイト半地下の家族』や人気ドラマ「愛の不時着」「梨泰院(イテウォン)クラス」に続き、ローカルがグローバルに通じることを「イカゲーム」が証明してみせたのだ。

 もっとも、この作品には批判も寄せられている。暴力的過ぎる、女性の描き方が差別的、VIP役の外国人のキャラと演技が陳腐で平板だ......など。また、253億ウォン(約24億円)の製作費(投資)で40倍近い1兆ウォン以上の利益を上げても収益はNetflixが独占し、ゲームの本当の勝者はNetflixだと言われた。グローバル・プラットフォームにおける従属関係と不公平さこそ、「イカゲーム」の描いた世界そのものかもしれない。

 とはいえ、Netflixがなければ本作は誕生しなかった。ファン・ドンヒョク監督は2009年にシナリオを完成させたが、商業性がないとして投資者が見つからなかった。Netflixは投資後に干渉しないので、テーマや表現面での自由度が高い。ファン監督は障害者問題を扱った社会派の『トガニ 幼き瞳の告発』から歴史スペクタクル『天命の城』、日本でもリメイクされたコメディ『怪しい彼女』まで、多様なジャンルの映画を撮ってきた実力派だ。Netflixと韓国の才能が出会った時、どういうシナジー効果が生まれるか端的に見せてくれた。

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