ヒトの最大寿命は115歳!? 私たち人間の「死ぬ理由」について新書大賞2位『生物はなぜ死ぬのか』著者が解き明かす

老化の始まりは徐々に“遅く”なっている
小林武彦

ヒトが死ぬ理由

以下、日本人の死因の上位を見ていきましょう。

2019年の時点で、日本人の死因の2位は心疾患、中でも多いのは虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)です。主に心臓に血液を送る血管の老化によって起こります。冠動脈が動脈硬化によって細くなり、心臓への血流が不足する、あるいは完全に詰まると心臓発作を起こして心臓が止まってしまいます。

突然死の多くは、心疾患によるものです。動脈硬化も加齢とともに進行してくる老化現象と捉えられています。動脈硬化の原因の一つであるコレステロールの血管内膜への蓄積は20代から始まりますが、血管が狭くなってくる症状が現れ動脈硬化が深刻化してくるのは、やはり50代後半からです。

喫煙などの生活習慣、肥満、高血圧、糖尿病なども硬化を引き起こしますが、「老いは血管から」と言われるくらい、血管は年齢とともに消耗しやすい器官なのです。

2019年の死因の3位は「老衰」です。

老衰は病名ではないので、死因として死亡診断書に書かない医師もいるようですが、在宅医療が増え、病院ではなく自宅で亡くなる方も多くなってきたため、死因の特定をせずに「老衰」とするケースが増えてきました。

ある程度、高齢になったら、さまざまな原因で亡くなる確率は高くなるわけで、直接の死因はそれほど問題ではなく、単に「老衰」でもいいように私は個人的には思います。要するに老衰は、老化により体が弱って死んでしまった(寿命が来た)という意味です。

2019年の死因の4位は「脳血管疾患」です。これは、がんに首位を奪われるまで死因の1位でした。脳血管疾患は心疾患と似ていて、やはり血管の老化が主な原因です。

血管が破れて脳の細胞を破壊してしまう場合(出血性脳血管疾患/脳出血やくも膜下出血など)と、血管が詰まることで脳の細胞に酸素や栄養を運べなくなる場合(虚血性脳血管疾患/脳梗塞など)の2通りあります。

脳血管疾患は突然死の原因になります。高血圧、動脈硬化を助長する生活習慣(喫煙、高度なストレス、運動不足など)が影響を与えます。2019年の死因の5位は肺炎です。肺炎は感染症や誤ご嚥えんによって起こり、老化による免疫機能や飲み込む力の低下の影響も大きいです。

以上に述べてきたような、老化が主な原因となる3疾病や老衰、肺炎で約7割の方が亡くなっています。ヒトが死ぬ理由は、つまり老化なのです。

※本稿は、『生物はなぜ死ぬのか』(講談社)の一部を再編集したものです。

生物はなぜ死ぬのか

小林武彦

年を重ねるにつれて体力は少しずつ衰え、肉体や心が徐々に変化していく。やむを得ないことだとわかっていても、老化は死へ一歩ずつ近づいているサインであり、私たちにとって「死」は、絶対的な恐るべきものとして存在している。

しかし、生物学の視点から見ると、すべての生き物、つまり私たち人間が死ぬことにも「重要な意味」がある。その意味とはいったい何なのか――「死」に意味があるならば、老化に抗うことは自然の摂理に反する冒涜となるのか。そして、人類が生み出した"死なないAI"と“死ぬべき人類”は、これからどのように付き合っていくべきなのか。

遺伝子に組み込まれた「死のプログラム」の意味を解き明かす!

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小林武彦
〔こばやしたけひこ〕
1963年生まれ。神奈川県出身。九州大学大学院修了(理学博士)、基礎生物学研究所、米国ロシュ分子生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所を経て、東京大学定量生命科学研究所教授(生命動態研究センター ゲノム再生研究分野)。前日本遺伝学会会長。現在、生物科学学会連合の代表も務める。生命の連続性を支えるゲノムの再生(若返り)機構を解き明かすべく日夜研究に励む。海と演劇をこよなく愛する。著書に『寿命はなぜ決まっているのか』(岩波ジュニア新書)、『DNAの98%は謎』(講談社ブルーバックス)など。
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