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『タコピーの原罪』 タイザン5著 評者:石岡良治【このマンガもすごい!】

石岡良治
『タコピーの原罪』タイザン5著/ジャンプコミックス(集英社)

評者:石岡良治

 ここ数年マンガ市場の成長が著しい。電子書籍の定着にも助けられ、コロナ禍のさなかに『鬼滅の刃』がヒットしたことはその象徴である。従来『週刊少年ジャンプ』の連載作には、アンケートの結果次第で短期打ち切りとなるか、人気を得て長期連載となるかに振れる傾向があった。だが『鬼滅の刃』がさほど引き延ばされずに完結したことで状況は大きく変動しているように思われる。ウェブプラットフォーム「少年ジャンプ+」の成功も相まって、2020年代における広義の「ジャンプマンガ」の存在感は増す一方だ。

 21年12月10日から22年3月25日にかけて「少年ジャンプ+」で連載された話題作『タコピーの原罪』の成功については、作品の力もさることながら、以上のような背景から理解できる。これまで短編読み切りを描いてきた作者タイザン5(ファイブ)が初めて連載した本作は、粗削りなところを多々含むにもかかわらず、ハードな展開が次々に生じる巧みなクリフハンガーと、上下巻の単行本に収まる短期連載というコンパクトさが、まさに現在のマンガ受容のあり方と見合っており、毎週金曜の連載更新時にはその都度SNSの話題となっていた。本作の比較対象となりうるのは、『チェンソーマン』の藤本タツキが単行本1冊分の長さのマンガを一挙掲載の形で公開した『ルックバック』(21年7月19日公開、本誌22年1月号で紹介)や『さよなら絵梨』(22年4月11日公開)だろう。

 だが、『タコピーの原罪』の魅力を、ネットで「バズった」という現象面からのみ捉えるのは事の半分でしかない。公開時の読者による「素早い」受容だけでなく、単行本などの形態を通した中長期的な「遅い」受容も重要であり、本作の現代性を先行作品のモチーフや構造の「アップデート」に見出せるのだ。本作には作者自身が語るようにダークな『ドラえもん』といった趣がある。酷いいじめに絶望している小学生「しずか」の前に、不自然なまでに陽気な宇宙人「タコピー」がハッピー道具とともに現れ、加害者の「まりな」やクラスメートの「東(あずま)くん」を巻き込んでいく物語は、タコピーを含めた全員が親との関係に問題を抱えているという絶望感の徹底が目を引く。いわゆる「毒親」をモチーフにしつつ繰り広げられる虐待や殺害などの陰惨な展開は、過剰な泣き顔の「しずか」と「まりな」をあしらったカバーイラストからも予期可能だが、実のところ本作の読後感は案外爽やかだ。ループ物語の体裁をもつがゆえに唐突な印象を残しやすい終盤のトーンの変化は、評価が分かれるだろう。だがマンガ投稿サービス「ジャンプルーキー!」に掲載されたタイザン5自身の短編「讃歌」が参考になる。「旧人類」が絶滅の危機にあるポストアポカリプス世界で、主人公が自分の物語を始めるところで終わる同作と同様、『タコピーの原罪』は、異性愛や親子愛による「救済」がしばしば悪循環をもたらしかねない時代相を見据えつつ、タコピーがマンガに「描かれたキャラ」であることを手がかりにした友情の物語なのだ。

(『中央公論』2022年7月号より)

石岡良治
早稲田大学准教授
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