矢野利裕×TVOD バラエティ番組はネット空間に何をもたらしたのか

矢野利裕(批評家・DJ)×コメカ(ライター・書店店主)×パンス(ライター・DJ)

内輪ノリの呪縛

コメカ 徳川夢声が言ったのは、いわゆる「近代的な主体」として各自言葉を発せよということですよね。

 ただテレビバラエティというのは基本的に、こいつはバカとか、こいつは頭が良いとか、番組内の関係性から相対的に決められたキャラクター設定によって、各自の発話機会が確保されているところがある。それは与えられた役割に沿った発話でしかなく、当人による主体的な発話にはなっていないと考えることもできます。

 ネットにおいても、例えばSNS上で出来上がった自分のキャラクターに、自分のツイート内容が引っ張られていったりすることは確実にあると思うんです。コミュニティ内の関係性で出来上がったキャラに、言葉が呑まれていくというか。

矢野 お笑い側を擁護すると、「はい、ここがオチね」というお約束の言葉は、そもそもバラエティとして面白くないと自分は思います。お約束が共有された空間はバラエティとしては成立していないのであって、面白いバラエティや大喜利は、やっぱりそういうお約束的な内輪ノリを打破しているのではないかな。

コメカ 担当キャラを割り振って発話機会を確保するような笑いではなく、その空間=内輪そのものを打破するような笑いとなると、発話のあり方=笑いの方法そのものに異化作用というか、定型をずらすような力を見出す方向があり得るかと思います。

 それは笑いが本来持つ力の一つでもありますよね。ただ笑いには、共同体を補完・再強化する機能もある。内輪ノリを打破しようとする力が、逆にそれを再強化する力に呑み込まれ、吸収されるような構造。

 また、そういう「ずらし」の機能を、お笑いの世界ではなくネットのコミュニケーション空間で実行することはかなり難しいだろうな、という気もします。

(続きは『中央公論』2022年8月号で)

中央公論 2022年8月号
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矢野利裕(批評家・DJ)×コメカ(ライター・書店店主)×パンス(ライター・DJ)
◆矢野利裕〔やのとしひろ〕
1983年東京都生まれ。「自分ならざる者を精一杯に生きる─町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。著書に『ジャニーズと日本』『コミックソングがJ-POPを作った』『今日よりもマシな明日 文学芸能論』など。

◆コメカ〔こめか〕
1984年埼玉県生まれ。法政大学文学部卒業。テキストユニット「TVOD」のメンバー。東京都国分寺市の古本屋「早春書店」の店主でもある。TVODとしての著書に『ポスト・サブカル焼け跡派』『政治家失言クロニクル』がある。

◆パンス〔ぱんす〕
1984年茨城県生まれ。法政大学文学部卒業。テキストユニット「TVOD」のメンバー。2022年に菅原慎一氏との共同監修による『アジア都市音楽ディスクガイド』を刊行。ほかに個人で『年表・サブカルチャーと社会の50年』を制作。
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