矢野利裕×TVOD バラエティ番組はネット空間に何をもたらしたのか
矢野利裕(批評家・DJ)×コメカ(ライター・書店店主)×パンス(ライター・DJ)
徳川夢声が夢見たもの
矢野 みんなを活かすという考え方は、バラエティや演芸の歴史にずっと流れています。
「笑点」は元々、立川談志が立ち上げて初代司会者を務めました。その時に当てられる側にキャラクターがないといけないから、それぞれ違う色の着物を着ることにしたそうです。つまり、キャラ付けというかたちでみんなを活かしている。
さらに興味深いのは、活動弁士の徳川夢声が1947年に出した『話術』という本です。徳川夢声は弁舌のプロとして、これからの日本は民主主義であり、誰もが政治のことを語らなくちゃいけないから、みんな自分の考えを言えるように今から教える話術を利用してください、といったことを書いている。戦後すぐという時代背景がうかがえます。
このように考えると、バラエティや演芸は人に発言の機会を与え続けてきた、という見方ができる。となると、そこで問題になるのは、与えられた機会で何を発話してきたのか、ということ。徳川夢声が重要視したのは、話術によってみんながそれぞれの意見を持って議論することだったはずです。
翻って現代では、ネット上で一般の人も発話できるようになったわけだけど、各々が自分の意見で議論するというよりは、誰かが書いた言葉をリツイートする方向性が強い印象です。オンラインサロンみたいなものも、同じ意見がずっと回り続けることで成立しているイメージがある。
パンス オンラインサロンみたいな会員制コミュニティに限らずとも、いつも同じ言葉を使っている集団は、イデオロギーを問わず観測できますね。その言葉が意味していることが政治的に正しいかどうかはさておき、一つの傾向があると感じます。要するに、内輪ということですね。