矢野利裕×TVOD バラエティ番組はネット空間に何をもたらしたのか
(『中央公論』2022年8月号より抜粋)
模倣されるバラエティ
――インターネット文化がこれだけ普及する一方、テレビなどのメディアとの関係性はまだまだ明らかになっていないと思います。そこで、サブカルチャーやお笑いに詳しいお三方に、特にテレビのバラエティ番組との関係に絞って、今のネット空間についてお話しいただければと思います。
パンス 最初の問題提起として、インターネットの「上手いこと言ったもん勝ち文化」みたいなものから話してみたいです。
『一億総ツッコミ時代』を書いた芸人のマキタスポーツは、テレビのお笑いに端を発するツッコミ文化が日本に浸透して、みんなが他罰的、かつ自己擁護的になっていると指摘していましたね。
コメカ テレビバラエティ史を振り返ると、1970年代に萩本欽一が「素人いじり」と呼ばれるような、アマチュアをいじる・つっこむ笑いをやり始めたと言われますよね。コント55号でも、翻弄される坂上二郎を萩本がいじって笑いにしていた。今でこそ優しいイメージの萩本だけど、元々はサディスティックなキャラクターだった。
80年代以降に活躍するビートたけしも、萩本が当初持っていた残酷性を受け継いでいたところがある。そして松本人志も、笑いの型は違うものの、80年代のたけしの方法論を受け継いでいった部分はやはりある。いじったりつっこんだりというのは、基本的に70、80年代あたりから醸成されていった振る舞いと言えるのかな、と。
矢野 舞台演芸からマスメディアのテレビへと移り変わるなかで、例えばビートたけしの喋り方を真似するように、お笑いのコミュニケーションが一般の人にも広がることはある。
僕の子どもの頃にも、松本人志のタレントに対するいじり方が学校で真似されるようなことはあった。それが今では、ネットにまで波及してきているのかもしれないですね。
コメカ バラエティを真似るというと、ザ・ドリフターズや萩本の時代には、基本的に小学生くらいの子らが身振りやギャグを真似ていたと思うんですよ。でも、80年代フジテレビ、ビートたけしの時代になると年齢層が中高生ぐらいに上がり、90年代、松本人志以降にはさらに世代が上がっていったのではないかと。
パンス 70年代の子どもたちにとっては口調や動きを真似るのを楽しむ感覚だったのが、80年代以降はバラエティのなかの芸人同士の関係性を真似るようになっていったと言えますね。
つまり、自分たちの日常コミュニケーションのモデルとしてお笑いを見るようになった。