新書大賞受賞・千葉雅也 人々がバラバラになるのがやむをえなかったから「現代思想」はその理論化を試みた。「共」の可能性は、徹底的に既成の秩序を疑った先で考え直すことができる

現代思想入門
千葉雅也

既成の秩序を疑うからこそ「共」の可能性を考え直すことができる

これは不当だと思います。真理の存在が揺らぎ、人々がバラバラになるのは世界史のやむをえない成り行きなのであり、かつて現代思想はその始まりに反応して、それはいかなることなのかと理論化を試みたのです。

確かに現代思想には相対主義的な面があります。本書で詳しく述べるように、二項対立を脱構築することがそうなのですが、それはきちんと理解するならば、「どんな主義主張でも好きに選んでOK」なのではありません。そこには、他者に向き合ってその他者性=固有性を尊重するという倫理があるし、また、共に生きるための秩序を仮に維持するということが裏テーマとして存在しています。

みんなバラバラでいいと言っているのではありません。いったん徹底的に既成の秩序を疑うからこそ、ラディカルに「共」の可能性を考え直すことができるのだ、というのが現代思想のスタンスなのです。

※本稿は、『現代思想入門』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

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千葉雅也
〔ちば・まさや〕
一九七八年、栃木県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は哲学・表象文化論。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけない』(河出文庫、第四回紀伊國屋じんぶん大賞、第五回表象文化論学会賞)、『ツイッター哲学』(河出文庫)、『勉強の哲学』(文春文庫)、『思弁的実在論と現代について』(青土社)、『意味がない無意味』(河出書房新社)、『デッドライン』(新潮社、第四一回野間文芸新人賞)、『ライティングの哲学』(共著、星海社新書)、『オーバーヒート』(新潮社、「オーバーヒート」第一六五回芥川賞候補、「マジックミラー」第四五回川端康成文学賞)など。
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