「部落問題」を描いた3時間半のドキュメンタリー映画が観客15000人を動員した理由
3時間25分という長さが必要だった
木下 ふつう、ああいう「対話」のシーンだと2カメ、3カメでカットバックして撮るんですが、そうせずにどう見せるのかということをカメラマンと満若さんが話し合ったんだと思います。みんなが想像するものとはちがうものを見せてやるぞという意気込みを感じました。
大島 そこは大きかったですね。まあドキュメンタリーの作り方として、撮影方法がいちばん重要かというとそれはまたちがう話ですが。黒川(みどり)先生のところも、黒板とチョークを使って(部落問題についての歴史的経緯などを)説明しているんですが、コツコツというチョークの音にライブ感がある。
ドキュメンタリーは、とくに私がかかわってきたものでいうと、そこで起きた事象に一生懸命ついていく。ナチュラルに現場で起きていることを撮影し、編集してストーリーを作っていく王道的なやり方があるんですが、この作品は現場に行く前に「どう見せるのか」ということをすごく考えている。それがテーマともマッチし3時間半もの長さにもかかわらず、飽きさせなかった。そういう驚きですね。松村(元樹)さんの朗読もポイント、ポイントで効果的に挟まれていますし。
木下 最初、映画の本編を見て私たちがやりましょうと言ったときには、今のようにまだ前編後編に分かれてはいなかったんですよね。それで大島さんを含めて相談させてもらったときには、私は「もう少し短くはならないかなあ」と言いました。理由は、映画館で回すことのできる回数です。同時に「前編後編に分けられないだろうか」という話が出たんですね。で、話し合ううちに前編後編にして、更に長くなってしまったんですけど。
――前編の終わりのところの「つづく」という引っ張り方がうまいと思いましたが、あれは?
満若 もともとあの「全国部落調査」復刻版出版事件の話が真ん中ぐらいには入っていたので、前編後編にするのであればそこで切って、かつあの場面で引っ張ろうというのは編集の前嶌(健治)さんのアイディアです。
――ウェブサイトで「部落探訪」を載せていた宮部(龍彦)さんを取材するシーンの出し方が後編への牽引車になっています。
大島 宮部さんのことに関して言うと、(監督が)フラットに向き合っていることで、いろんな人がいろんなことを言うのはわかるんです(部落問題に関わってきた人たちから、宮部氏に対して批判的でないとの不満や批判が出た)。だけど被写体に対して「お前のことを悪く描くからな」と言って撮るドキュメンタリーの作り手はまず、いないと思うんです。
満若 僕が見てきたテレビの世界だといないと思いますね。
大島 それで、宮部さんであろうが、取材をさせてくれと依頼した以上はフラットに撮るというスタイルだったと思うんですね。それを観たひとがどう捉えるのかという問題は別で。彼のやっていることに同調していますというスタンスでもないわけですよね。それは登場するあらゆるひとに対する敬意があって、それがあるから人物の魅力が引き出されているんだと思いました。
私は、たまたま同年代の子どもがいるので、北芝の若者のシーンがすごく好きなんですけど、まさに人間の感情が描かれていると思いました。
満若 似たようなことを助手時代に辻さんからも言われたんですよね。内面を鍛えろって。取材の基本的な姿勢として、先入観をもって撮影がうまくいった試しはない、と。すばらしい人格の持ち主だと思って会ってみたら、とんでもなく破綻した人だったということもなくはないので。そういった意外性もドキュメンタリーの面白さだと思います。