安部かすみ アメリカで起きている「リアル書店」の復活
「最近読んでいる本はなに?」
もともと、アメリカ人は本が大好きである。少なくとも〝教養のある人〟は本が好きだ。彼らは書物を「知性を豊かにするもの」と捉え、読書を嗜む。愛書家の友人は会うたびにいつも、挨拶の一部として「最近読んでいる本はなに?」と聞いてくる。
そんな彼らの自宅に行くと、天井まで届く壁いっぱいの本棚に本がぎっしり並べられている光景に出合うことも珍しくない。彼らは表紙がかっこいいなど、上辺だけの理由で本を並べているわけではない。自分の知識を可視化したものと捉え、インテリアの一部としているのだ。つまり本棚=自分の一部なのである。
であるから、書店は多くの人に愛されてきた。アメリカでは早い時期から書店にカフェや椅子、ソファが置かれるようになり、本を購入せずとも椅子やソファに(もしくは床に直接)座って自由に本を読むことができた(店のポリシーにもよる)。
私はよくニューヨークの地下鉄の乗客を観察して、市民の動向を探っている。ネット全盛時代の現在、電車内で皆が見ているのはスマホの画面だし、電子書籍を読んでいる人が増えてきたのも事実だ。それでもまだ、紙の本を読んでいる人は結構多い。軽いペーパーバックだけではなく、ハードカバーの本や、「それ、どこで借りてきた学術書?」と目を疑うほど分厚い書物を開いて読み込んでいる人も、老若男女関係なく存在する。そんな光景を目の当たりにするたびに、高齢者のみならず、大学生風の比較的若い世代の人たちにも紙の本がいまだ支持されていることを実感するのだった。
アメリカでは19年に片付けコンサルタント・近藤麻理恵さんの「KonMariメソッド」ブームが起きたが、その際、愛書家からは「心の財産である本まで片付けなければいけないの?」と大論争が湧き起こったほどである。
(続きは『中央公論』2023年7月号で)
福岡県生まれ。出版社勤務を経て2002年渡米。米国務省外国記者組織 NY Foreign Press Centerに所属。雑誌、ニュースサイト、ラジオなどで幅広くニューヨーク情報を発信中。著書に『NYのクリエイティブ地区 ブルックリンへ』がある。