速水健朗 団塊ジュニア世代の目に映った言論空間

速水健朗(ライター・編集者)

空気を読まずにメディアに出るということ

──言論人がテレビ出演することについては、どう思いますか?


 引き続き村上龍の話になりますが、彼が司会のトーク番組の「Ryu's
Bar 気ままにいい夜」(1987~91年、TBS系列)は、当時中学生だった僕が、もっとも熱心に見ていた番組でした。司会として、決して鋭い質問をするわけではありません。まとめに入らないといけない場面なのに呑気に進行を続けて、ゲストが驚いてしまうみたいな感じでした。けど、進行が拙いことで深く掘り出せる話ってあるんですよ。これはテレビではなかなか見ることができない。今の「カンブリア宮殿」(テレビ東京系列)での村上龍は、空気を読んでまとめながら進行していますが。

 僕は子どもの頃、テレビタレントではない言論人がテレビに出ているのを見るのが好きでした。最初に、「あれ、この人はタレントではないけどテレビに出るんだ」と気になった人は、糸井重里(1948年生まれ)です。NHK教育テレビの「YOU」(1982~87年)で、見ていたのは小学生の頃。まだ若手の笑福亭鶴瓶が司会の回と、糸井が司会の回があるんですよ。

 毎回、いろいろな若者文化をテーマに議論するという番組です。ある時の話題が「若者文化とナンパ」みたいなトピックで、NHKでそれを真面目に語り合っているのも面白かったし、いい大人たちが、自分の実体験とかを披露しながらわいわい議論をしているんです。テレビの予定調和を狂わす役割を、当時の糸井重里が果たしていたのは、子どもながらに伝わってきました。

 僕もラジオやテレビに出る仕事を時々するんですけど、かつての村上龍や糸井重里を見ていなかったら、そういう仕事は絶対にやっていないです。当時の彼らは、テレビでの予定調和をキャンセルする役割を果たしていた。これは、お笑い芸人が予定調和の中でいかに振る舞うかというのとは、正反対の態度ですよね。自分がうまくできているかどうかはともかく、僕がテレビやラジオで意識しているのは、予定調和からいかに逸脱できるかです。これは口で言うのは簡単ですけど、意外と難しい。コメンテーターって日本のニュース番組特有の存在で、不要論も多いですが、専門家に突っ込んだ質問をして別の視点を示す存在、まさに予定調和に陥りやすいニュースを別のものにする存在として、時には必要なんです。

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