大瀬康一×鈴木美潮 元祖特撮ヒーローは「変身」しない正義の味方

大瀬康一(俳優)×鈴木美潮(読売新聞専門委員)

「変身」ではなく「変装」

鈴木 当時の大瀬さんは21歳には見えない落ち着きがあります。祝探偵は30歳過ぎの設定ですが、役作りはどのように?


大瀬 ないです(笑)。普通、役者は「どこで生まれてどういう生活をしてきたか」を考えて役を作りますが、月光と祝に関しては、全くしなかった。4、5話分を並行して撮影していたから「(台本の)何ページの何行目」と言われて台詞を喋るのが精一杯で、監督に言われるままに芝居をしていました。結果的にそれがよかったんじゃないかな。「祝はどこで月光の扮装に着替えるのか」とか考えたら成立しないから。


鈴木 確かに(笑)。大瀬さんは月光仮面は「変身」ではなく「変装」だと強調なさいますね。


大瀬 今のヒーローたちは変身して別人格というか、超人になりますよね。月光仮面は同じ人間が自分で能力を磨き、変装して戦うんです。恵まれた現場で撮影している今の後輩たちへのジェラシーがあるのかもしれませんが、「俺は変装だよ。君たちは変身だろ」と、つい言いたくなってしまう。


鈴木 原作の川内先生が著書『生涯助ッ人回想録』(集英社)で「僕の作品の主人公というのは絶対に変身しない」と言っておられるのと、どこか通じていますね。川内作品では「愛の戦士レインボーマン」(72~73年)でも普通の若者が、インドの山奥で修行してレインボーマンとして戦う能力を身につける設定でした。


大瀬 それは知りませんでした。


鈴木 「月光仮面」は人気が沸騰し、58年から59年にかけて東映で映画化されましたが、違う役者(大村文武氏)が月光仮面・祝十郎を演じました。


大瀬 本当は僕が映画もやるべきでした。映画を見て「テレビの月光仮面と違う」と拒否反応を示す人が多く、ヒットしなかったから。制作サイドは「扮装しているから役者は誰でもいい」「子供は役者を代えてもわからない」くらいにナメていたと思います。映画よりテレビが下に見られ、子供番組がジャリ番組として、さらに下に見られている時代でした。だけど、同じ月光の扮装をしていても、私と彼とでは滲み出るものが違ったんですよね。

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