大瀬康一×鈴木美潮 元祖特撮ヒーローは「変身」しない正義の味方

大瀬康一(俳優)×鈴木美潮(読売新聞専門委員)

『シン・仮面ライダー』は異例

鈴木 私は特撮ヒーロー愛好活動を長年続けていて、「日本特撮党党首」を自任しておりますが、スーツアクターについて考察した新著で、大瀬さんに「元祖等身大スーツアクター」として取材をお願いしたのがお目にかかるきっかけでした。


大瀬 スーツアクターという呼び方は僕らの頃は影も形もなかった言葉ですね。


鈴木 この言葉は90年代後半に生まれた和製英語です。映画では54年に『ゴジラ』でゴジラ役を東宝の大部屋俳優、中島春雄さんが担当しましたが、まだスーツアクターとは呼ばれていません。改めて定義するなら、スーツアクターとは、特撮ヒーロー番組で「面」と「衣装=スーツ」をまとってヒーローや怪人などを演じるアクター(俳優)のことです。


大瀬 僕の時代には変装した後も演じるのが普通でした。


鈴木 特に等身大ヒーローでは、「仮面ライダー」の藤岡さんあたりまで、変身前も後も演じる慣例があったと思います。それが次第に変身後を分けて演じるようになって、スーツアクト(面をつけての芝居)の技術も発展しました。80年代にジャパンアクションクラブ(JAC。現・ジャパンアクションエンタープライズ=JAE)所属の役者が変身前後の両方を演じた以外は、分業体制が一般的です。大瀬さんもおっしゃるようにヘアメイクだけでも撮影現場や本人の負担が大きいし、崖から飛び降りたり爆発する中を駆け抜けたりの危険なアクションは、専門の訓練を受けていないと難しいからです。

 主役の役者が変身後も演じていると誤解する人がいますが、彼らが演じるのは変身ポーズまで。今年公開された映画『シン・仮面ライダー』で庵野秀明監督が役者にライダーの衣装を着ての殺陣まで求めたのは異例中の異例です。


大瀬 スーツを着てお芝居をできる人が増えるのは、現場にはありがたいですね。

(続きは『中央公論』2023年11月号で)

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大瀬康一(俳優)×鈴木美潮(読売新聞専門委員)
◆大瀬康一〔おおせこういち〕
1937年横浜市生まれ。小学校では美空ひばりと同級生。58年「月光仮面」(宣弘社制作)の主役に抜擢され、59~60年「豹(ジャガー)の眼」(同)にも主演。大映映画数本に出演後、62~65年に「隠密剣士」(同)の主演で大ヒットを飾る。70年代に俳優を引退し実業界に転じたが、近年、芸能活動を再開。2022年に大分県豊後高田市の「昭和の町」観光大使に就任した。

◆鈴木美潮〔すずきみしお〕
1964年東京都生まれ。米ボストン大学在学中に連邦議会下院議員事務所インターンを経験。88年、ノースウェスタン大学大学院修士号(政治学)取得。89年、読売新聞社入社。政治部、文化部などを経て現職。日本テレビ「イブニングプレスdonna」「ラジかるッ」に出演。著書に『昭和特撮文化概論ヒーローたちの戦いは報われたか』『スーツアクターの矜恃』がある。
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