『世界』『正論』『中央公論』編集長が語る日本の言論空間

堀 由貴子(『世界』編集長)×田北真樹子(『正論』編集長)×五十嵐 文(『中央公論』編集長 )
五十嵐 文氏(左)、堀 由貴子氏(中央)、田北真樹子(右)
(『中央公論』2024年4月号特集「荒れる言論空間、消えゆく論壇」より抜粋)

編集長になるまで

五十嵐 私は『中央公論』としては二人目の女性編集長ですが、女性ということを強調するのにもされるのにも、抵抗があります。しかし、近年休刊となる雑誌が増えているなかで、生き延びている老舗総合雑誌3誌の編集長が、同じ時期に女性となったのは異例のことであり、メディアを生業とする者として見逃す手はないと思い直しました。本日は立ち位置の異なる3誌の女性編集長が集まり、雑誌の現状と未来について話してみたいと思います。

 まずは、それぞれの雑誌との関わりについて聞かせてください。編集者としてキャリアが長い順に堀さんからお願いします。


 私は2009年に岩波書店に入社し、『世界』編集部に配属されました。ただ、どちらかというと文化や人文書への憧れが強く、『世界』の熱心な読者とは言えませんでした。8年ほど在籍してから単行本の部署に異動し、再び編集部に戻って編集長を務めることになりました。編集部を離れていた数年間は『世界』を外から見つめ、あらためて付き合い方を考える時間だったと思います。


田北 私はアメリカの大学を卒業後、産経新聞に入社し、00年から政治部配属となりました。その後、特派員としてインドに赴任し、帰国後は慰安婦問題などの「歴史戦」取材に関わり、再び政治部に戻って安倍政権時代の首相官邸キャップを務めました。全く縁がないと思っていた『正論』への異動は「社内転職」みたいなものでしたが、希望ではない部署に行ったときこそ、自分が一番伸びるチャンスだと思って取り組んできました。


五十嵐 私も新聞記者出身で、政治部時代は官邸や国会で田北さんと一緒に取材したこともありましたね。ワシントンと北京で特派員を務め、忙しい現場の取材には慣れていましたが、知的な印象が強い『中央公論』への異動は驚きで、正直戸惑いもありました。

 編集者の仕事は自分で取材・執筆する記者とは違いますが、『中央公論』は政治や国際情勢など硬派な話題がコアで、そこをつなぎ目にしながら雑誌ならではの発想や制作のリズムを身につけ、がぜん面白みを感じています。

 ところで、編集部の態勢はどうなっていますか。『中央公論』編集部は私を入れて5人。異動した当初は20代が2人もいて、中高年向けのイメージがあるこの雑誌に若者が参画していることに希望を覚えました(笑)。あとは40代、50代が一人ずつです。


堀 『世界』編集部は全部で5人、私のほかに、50代の部員が2人、40代の副編集長と20代の部員がいます。編集長として背伸びすることにエネルギーを使うのは最初からやめて、「誰も完全ではない」ことを前提に、チームで補完しあったり話し合いができるようになってきたと思います。


田北 『正論』の編集部は私を入れて4人。全員が『産経新聞』の記者出身で、一人は私の先輩ですが、他は30代と50代の後輩です。

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