三宅香帆×ラランド・ニシダ「みんなもっとサボって本を読もう!」

三宅香帆(文芸評論家)×ニシダ(お笑い芸人)
ラランド・ニシダ氏(左)、三宅香帆氏(右)
(『中央公論』2024年8月号より抜粋)

本をたくさん読む人にも悩みはある

――三宅さんの著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(以下、『なぜ働』)が今年4月の発売から2ヵ月で15万部のヒットとなっています。これはタイトルにあるような状況に悩む人が多いことを示していると思います。一方、お笑い芸人として活動するニシダさんは、年間100冊を読む読書家として知られていると同時に、大学で3回留年して2回退学になったり、仕事でも何かとルーズな一面があったりと、メディアで披露されるエピソードからは怠惰なイメージもあります。いわば「働いていると本が読めなくなる」人とは正反対の存在なのではないか。そこで今回、共に1994年生まれのお二人に、読書と労働についてうかがっていきたいと思います。


ニシダ この対談のお話をいただく前に、『なぜ働』は読んでいました。書店で見つけて、タイトルがいいな、と。日本人の読書史が丁寧にまとめられていて、偉そうな言い方ですが読み物としてとても面白かったです。自分は「週5で9時から18時まで」みたいな働き方をしてきていないのでちょっと遠い話だとは思いつつも、それでも思い当たる節はあるなと感じました。


三宅 ありがとうございます。実は刊行前に「ニシダさんに読んでもらえないかな」と担当編集者と話していたので、すごくうれしいです。ニシダさんは忙しくて本が読めなくなるようなことはあるんですか? 


ニシダ あんまりそういう感覚はないですかね。正直、そんなに忙しいわけではないんですよ(笑)。それと、本を読んで話すのも仕事の一つだから、というのもあるかもしれません。そこは芸人という職業の懐の深さというか、普通の社会人とは働き方が違うからなんでしょうね。


三宅 ニシダさんの小説『不器用で』を拝読して、純文学が本当に好きな方が書いた作品だなと感じました。普段は小説以外にもいろいろなジャンルを読みますか?


ニシダ わりとなんでも読むようにしています。中学生や高校生の頃は純文学が中心でしたが、大人になってから、小説しか読まないのは間口の狭い読書になってあんまり良くないと思ったんですね。今は新書も読みますし、書店で医学や生物学などの棚も見て、面白そうなものがあれば読んでいます。

 ただ、自分の読書の仕方はちょっと変ではあるんですよ。中学生の頃から年間100冊読むことを目標にしてきたんですが、そのせいで「年間100冊読むための読書」になっているところがあります。分厚い小説を読んでも薄いエッセイを読んでも同じ〝1冊〟だから、本当は前者を読みたくても数を稼ぐために後者を読んでしまって、これはこれで不純な読書だな、と。


三宅 私はもともと読んだ冊数を数えていませんでしたが、取材などで「年間何冊くらい読みますか」と聞かれることがあるんです。それで、今年になってからカウントするようにしました。でもそうすると、やっぱりなんとなくそれを気にしてしまう自分がいて。多くても「暇なんだ」と思われそうで恥ずかしいし、少なくてもやっぱり恥ずかしいし......という自意識が芽生えてきてしまいました。


ニシダ 多すぎると「働いてないやつ」みたいに見えてしまいますもんね。特に僕の場合は周りに本を読む人がそんなにいないので、余計に「暇なんだ」と思われている感じがします。

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