石川敬史 170年の自由の歴史から始まった国――アメリカ合衆国はエンパイアの夢を見るか

石川敬史(帝京大学教授)
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 米国は帝国からは縁遠いようにも思えるが、歴史を遡れば帝国的な要素が色濃く表れる。そして、かつての宗主国イギリスとはどのような関係にあったのか。アメリカ革命史が専門の石川敬史・帝京大学教授が論じる。
(『中央公論』2022年7月号より抜粋)

帝国として生まれて

 近年、ことにオバマ政権以降のアメリカ合衆国は、世界の警察官としての役割に消極的な姿勢をとり続けている。それは、第43代大統領ジョージ・W・ブッシュ政権期の対テロ戦争における挫折以降、保守とリベラルといった政治信条を超えたコンセンサスであるようにも見受けられ、論者によっては、アメリカは覇権国家からの撤退を図っているとの見方もある。

 すなわちアメリカ合衆国は、第二次世界大戦終結以降の帝国としての立場を降り、「普通の国家」として再生を図ろうとしているのではないかということだ。これは、アメリカ合衆国の孤立主義の伝統とも、また近年の激しいが内向きなポピュリズムとも相まって、一定の説得力がある観測ではある。

 しかし、アメリカ合衆国を理解する上で大前提として我々が押さえておかなければならないのは、アメリカ合衆国は、その建国から今日に至るまで、あくまで帝国であったということである。

 近世の終わりに建国されたこの国が、西欧政治思想における諸原理を足がかりとしていたことは確かだが、それは西欧近代の延長上に創設された国なのではなく、その逸脱であったことを確認しておく必要がある。「アメリカ例外論」の根幹でもあったのが、アメリカ合衆国は最初から帝国であったという認識である。それは、アメリカ革命それ自体が、絶対王政期から19世紀初頭にかけて、主権国家化を進めるヨーロッパの潮流に抗うものであったことに端を発する。

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