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中国の若者は日本をどう見ているか?

中島 恵 (ジャーナリスト)

日本人は真面目すぎかもね

「すみませ〜ん。まったく、どいつもこいつも約束の時間に遅れるなんて、ホントに申し訳ないで〜す」

 日本より一足早く秋風が吹いた九月初旬の北京。母校だという有名進学校、中国人民大学附属中学横のマクドナルドで待ち合わせをした中国人の李小燕(仮名、二十二歳)は照れながらペコリと頭を下げた。この日は同級生四人とともに私と会う約束をしていた。

 彼女は今夏、名門清華大学を卒業し、秋から米コロンビア大学に留学するという才媛。これまでに一五ヵ国に行ったことがあるという。しかし、その大学生らしい自然な日本語と日本人のような容貌に思わず「ここは日本?」と錯覚してしまうほどだ。

 中学時代に「仲良しの友だちが日本語を勉強するというので」つられて自分も学び始め、高校時代に日本の進学校に短期留学した経験を持つ。日本人の男子と雪合戦したことが懐かしい思い出で、「すごく触発されましたね」と勝気そうな笑顔で当時を振り返る。

 遅れて集まってきた仲間たちも北京大学、中国伝媒大学などエリート校の出身で今年卒業したばかり。だが、驚くことに誰一人として就職するつもりはなく、それぞれ留学予定だという。北京大学経済学部を卒業した同級生の銭芳(仮名)は「キャンパスで知り合った彼氏が韓国人なので、これから韓国に留学するの」といって目を輝かせた。

 大学三年次から一斉にリクルートスーツに身を包み、就職活動に躍起にならざるを得ない日本人大学生とは大きな違いだ。むろん中国でも一般的な大学生の多くは就職難に陥っており、深刻な社会問題となっているのだが、一部のエリートにとっては無縁らしい。

 日本での就職活動がいかに大変かを説く私に向かって黄志輝(仮名)は、「日本の経済は確かに悪いと思うけれど、日本人のマイナス思考も問題。日本人は真面目すぎて、自分で自分を苦しめてしまう性格なのかもね」とあっけらかんと語った。彼自身は「留学は自分の視野と可能性を広げるもの。就職はいつでもできるから」と楽観的に夢を描いている。

 彼らは毎月一〇〇〇元(約一万三〇〇〇円)以上のおこづかいをもらい、大きな買い物は親のクレジットカードを使う。彼らにとっては「平均的な額」だが、新卒の平均月収が約三〇〇〇元(約四万円)の中国では裕福なほうに入るのではないか。私はエリート学生たちの経済的豊かさと精神的余裕、そして経済成長し続ける国に身を置くことで自然に描ける未来志向というものを肌で感じ取ることができた。

 李たちは天安門事件が発生する一年前、一九八八年に生まれた、中国で「八〇后(八〇年代生まれ)」と呼ばれる一人っ子世代だ。ちょうど日本ではバブルが最高潮だった時期である。中国では「小皇帝」などというレッテルを貼られ、特別視されてきた若者世代だが、十数年後には彼らが中国社会のマジョリティとなる。彼らの言動や思考が中国の未来、そして日中関係を形づくっていくといってもいい。

 中国が改革・開放する以前に生まれた旧世代とは異なる価値観を持っているといわれる通り、ファッショナブルで小顔、均整の取れた顔立ちは日本の若者と何ひとつ変わらない。

 しかし、二〇〇五年に吹き荒れた反日デモの頃、多感な学生時代を送った彼らの中身はどのように形成されているのか。私は、日本に本格的に住んだことはないが旅行や短期留学の経験があって、日本に高い関心を持つ北京の「八〇后」に的を絞り、彼らが同世代の日本人や日本をどのように見ているのかを現地取材した。

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