ウィキリークスが流した「秘密資料」の中身

編集(本誌編集部)  翻訳(山口瑞彦)
(この記事は、内部告発サイト「ウィキリークス」http://213.251.145.96/に掲載された文書を一部抜粋・編集して翻訳したものです)

ネットで公開されるやいなや世界を震撼させたウィキリークス。政府高官たちの「ホンネ」が透けてみえる内容のようだが、はたしてどれほど深刻な機密流出なのであろうか。いくつかの文書を翻訳してみた

中国高官、北朝鮮を「甘やかされた子ども」と語る

二〇〇九年四月三十日[極秘]北京大使館発

 中国の何亜非外務次官は、北朝鮮について、六ヵ国協議を通して話し合うだけでなく、ワシントンで「非公式協議」を行うことを希望した。ワシントンと北京は、どのようにして六ヵ国協議開催への可能性を維持し、朝鮮半島の安定から得られる共通の利益をどう守るか、について話し合う必要がある。北朝鮮は、アメリカと直接交渉することを願っている。そのために、「大人」の関心を惹こうとする「甘やかされた子ども」のような行動を取っている。したがって中国としては、アメリカは・しばらく時間をおいてから・北朝鮮との関与を再開するべきだと考えている。これに関連して、「ニューヨーク・チャンネル」を開けたままにしておいたほうがいい、と何外務次官は述べた。

 またスティーブン・ボズワース北朝鮮政策特別代表の五月の北京訪問に関して、何外務次官は、もし六ヵ国協議の中断が長引くようなら、参加六ヵ国は、北朝鮮との二ヵ国、あるいは三ヵ国の間でも、各国が互いに関与する方法を探し出す必要があるとした。これに対して駐中代理大使は、「私たちは平壌の態度の悪い振る舞いを増長させないように注意するべきである」と述べた。

二〇〇九年十月二十六日[極秘]北京大使館発
二〇〇九年九月二十九日午前八時三十分、北京のセントレジス・ホテルにて会談。
 アメリカ側:スタインバーグ国務副長官、ローラ・ストーン(記録者)
 中国側:何亜非外務次官、アンガン外務省北アメリカ・オセアニア局米国部長(記録者)

 何外務次官は、温家宝首相の十月四日〜六日の平壌訪問を控え目に評価したうえで、「私たちは彼ら(北朝鮮)が好きとは言えないかもしれない」けれども、「彼らは隣人だ」とし、訪問は両国関係の六〇周年記念の一部だと述べた。温首相は北朝鮮に対して、核を放棄し、六ヵ国協議に復帰すること、そして六ヵ国協議の枠組みを放棄しないことの必要性を、強いメッセージとして伝えるだろうと彼は述べた。さらに、北朝鮮はしばしば中国をアメリカにけしかけさせようとして、米朝二国間会話に関する情報を中国に伝えることを拒否する、と言及した。また何外務次官は、あきらかに記録されることを意識して、「核武装はしているが非拡散を目指すと言っている北朝鮮を、アメリカは容認する用意があるのか」と尋ねた。スタインバーグ副長官は、「これは容認することもできないし、現状を維持することもできない」と答えた。

韓国高官、「北朝鮮は崩壊する」と語る

二〇一〇年二月二十二日[極秘]ソウル大使館発

 二月十七日、韓国外交通商部第二次官で六ヵ国協議の前韓国主席代表である千英宇は、スティーブンス駐韓米大使に対して、「中国は金正日の死に伴う北朝鮮の崩壊を止めることができないだろう」と語った。さらに、「北朝鮮はすでに経済的に崩壊しており、金正日の死後二年から三年で政治的に崩壊するだろう」と語った。また千は、「中国企業が北の経済に一〇〇億米ドルを注ぎ込むことに合意した」という韓国メディアの報道を事実無根であると退けた。「中国は北朝鮮に対して、多くの人々が信じているよりもはるかに小さな影響力しか持っていない」と述べた。北京は、平壌に対して政治の変化を強いるために、経済的に何かをしようという「意思」を持っていない。そして北朝鮮指導部は、それを知っていると述べた。

 そして、北朝鮮が「もっとも無能力な中国の当局者」と評する武大偉が、中国の六ヵ国協議代表の地位を保持したことについて、「非常に悪いこと」だと語った。武は傲慢でマルクス主義をまくしたてる元紅衛兵であり、「北朝鮮について何も知らず、非核化についても何も知らず、英語を話せないため意思疎通が難しい」と不満を漏らした。武はまた強硬な民族主義者で、中国の経済的な台頭は、中国が偉大な世界強国であるという「常態への回帰」だと大声で宣言する人物であると述べた。

 千次官によれば、優秀な中国の当局者たちは、武とはまったく対照的だ。彼らは「新しい現実に直面する」用意があり、いまや中国にとって、北朝鮮には緩衝国家としての価値はほとんどないと千次官は語った。
 さらに、北朝鮮が崩壊した場合、中国は、いかなる形であっても非武装地帯の北側にアメリカ軍が介入してくることを「歓迎しない」だろうとも語った。ソウルによって支配される再統一朝鮮は、中国に対して敵対的でない限り、中国にとっても望ましいものだろう。中国企業にとっては、自社製品と労働力を輸出する途方もなく大きなチャンスであることも、再統一朝鮮との共存についての懸念を緩めることになるだろうと語った。

 千次官は、「北朝鮮崩壊の際、中国が軍事的に介入する可能性はない。中国が戦略的な利害関係を重視しているのは、いまや北朝鮮ではなく、アメリカ、日本、そして韓国にある」と述べた。さらに千次官は、北朝鮮の内部的危機に対するあからさまな中国の軍事介入は、「中国の少数民族の独立を刺激」しかねない、とも論じた。
 千次官は、強力な韓日関係を築くことは、ソウルの支配下での朝鮮半島再統一を東京が受け入れる助けになるのではないか、という大使の指摘にうなずいた。千次官は、たとえ「日本の選択」が朝鮮の分断を維持するものだとしても、東京は北朝鮮崩壊の際に再統一を阻止するための施策を欠いている、と断言した。

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