ウィキリークスが流した「秘密資料」の中身

編集(本誌編集部)  翻訳(山口瑞彦)

サウジアラビア、夜のどんちゃん騒ぎ

二〇〇九年十一月十八日[秘]ジッダ大使館発

 街頭で見られるワッハーブ派の保守主義の背後で、ジッダの若者エリートたちの夜の生活は、地下で盛んに脈を打っている。この街では、アルコール、麻薬、セックスといったあらゆる現世の誘惑と悪徳が手に入る。ただし、しっかりと閉じられた扉の背後で。このように肉欲にふける自由があるのは、要するに、サウジ王族とその忠臣グループが同席したり、あるいはその庇護の下でパーティーが行われる時には、宗教警察が距離を保っているからである。

 たとえば、十月二十九日に総領事館職員たちが出席したハロウィーン行事などが一例である。

 一五〇人のサウジの若者(ほぼ全員が二十代か三十代前半の男女)とともに、総領事館職員たちは、XXX日にジッダにあるXXX邸で開かれた地下ハロウィーン・パーティーへの招待状を受け取った。門を入り、XXXの守衛を抜け、アバヤ(訳注・イスラム圏の女性が着る黒いコート)コートの検閲を過ぎると、目の前に開けた情景は、王国の外のどこにでもあるナイトクラブのようになった。あふれんばかりのアルコール、踊る若いカップル、ターンテーブルのDJ、みんな着飾っていた。パーティーの資金は、スポンサーの会社XXXと、ホストのXXX自身が出した。「カウィ」(訳注・側近)にかしずかれた王族が、宗教警察を遠ざけ続けていた。

 宗教警察はどこにも見当たらなかった。入場は、厳密に守られた賓客リストによって管理されていたものの、参加者たちはパーティーのことを平気で公言していた。著名な商人一族出身の若いサウジ人によると、サウジの人々はプリンスの家やプリンスの出席の下でパーティーを行おうとする。そうすることで、宗教警察の介入を抑止することができるからだ。なお王国には、階級はさまざまだが、一万人以上のプリンスがいる。

 アルコールはサウジの法と習慣できびしく禁止されているが、パーティーでは十分な品揃えの酒がバーに山ほど並んでいて、ハロウィーン客たちで大繁盛だった。雇われたフィリピン人のバーテンダーが、地元の密造酒「サディキ」を使ってカクテルを供していた。

 こうしたパーティーは、ジッダでは比較的最近になって見られる現象とされている。ある若いサウジ男性の説明によると、つい数年前まで、週末の活動は、裕福な家の中での、小グループによる「デート」だけだった。ジッダの大豪邸の中には、手の込んだ地下のバーやディスコ、娯楽室、クラブなどがあることは珍しくない。ある上流階級のサウジ人は「過去何年かの間に我々の社会で高まった保守主義によって、社会的交流は人々の家の中に移ってしまった」と述べている。

アルゼンチン大統領は精神的に病んでいる?

二〇〇九年十二月三十一日[極秘]アメリカ国務省発

 ワシントンの分析者たちは、アルゼンチンの最高指導部、とりわけクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル(訳注・現大統領)とネストル・キルチネル(訳注・その夫で前大統領)について大きな関心を持っている。以下の質問に関するあらゆる洞察を歓迎する。

 クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネルは、どのように神経と不安を管理しているのだろうか? 助言者や政策立案者たちに対する彼女の振る舞いに、ストレスはどう影響しているのだろうか? クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル自身、あるいは彼女の助言者・黒幕が、彼女のストレスに対処するためにどのような方策を取っているのだろうか? どのような状況下で、彼女はストレスをもっともうまく扱うことができるのか? クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネルの感情は、彼女の意思決定にどう影響し、また不安にさいなまれてしまった時、彼女はそれをどう沈静化するのだろうか?

 ネストル・キルチネルの消化器疾患の状態はどれほどのものなのだろうか? それは彼を悩ませ続けているのか? 彼は何かの投薬を受けているのか? 「癇癪持ち」として知られるネストル・キルチネルだが、その感情的に極端から極端に動く性質はより悪化しているのか? ネストル・キルチネルの怒りを爆発させる引き金とは何なのだろうか?

リビア指導者の変人ぶりを垣間見る

二〇〇九年九月二十九日[極秘]トリポリ大使館発

 カダフィ大佐はウクライナ人看護師ガリーナ・XXXにひどく依存している。彼女は「豊満な金髪女」と言われている。指導者の健康と精神的な安寧に応える噂のウクライナ人看護師四人組のうち、XXXが複数の大使館員に強調したところによれば、カダフィはXXXなしで旅行することができないそうだ。彼女だけが「彼の日課」を知っているからだと言う。XXXのビザ申請が遅れたため、入国許可が届いたのは、カダフィ一行が米国に向けて出発する予定日の当日だった。リビア政府は、彼女をリビアからポルトガルに運び、指導者が乗り継ぐ際に合流させるため、プライベート・ジェット機を派遣した。

 大使館の接触先の何人かは、カダフィと三十八歳のXXXはロマンチックな関係にある、と主張している。そうした噂についてはコメントしないものの、XXXの一人は最近、ウクライナ人看護師が「指導者と一緒にどこにでも旅行する」ことを確認した。

 カダフィはまた、ビルの上層階を強く嫌っている、あるいは恐れている。さらに飛行機が水の上を飛ぶことを好まず、競馬とフラメンコ・ダンスを楽しんでいるようだと伝えられている。
 彼の最近の旅行は、伝説的だった女性の警護隊に対する彼の依存度が弱まったことを示唆しているのかもしれない。なぜならニューヨークに同行した女性ボディーガードは一人だけだったから。

アフガニスタン大統領は被害妄想狂

二〇一〇年二月二十六日[極秘]カブール大使館発

 二月二十五日、アイケンベリー駐アフガニスタン米大使は、オマール・ザヒルワル財務大臣を訪問した。ザヒルワルはカルザイについて、「彼は極めて弱い男」で、事実に耳を傾けず、それがどんなに荒唐無稽なものであっても彼に対する陰謀の話をする者に簡単に動かされる、と言った。カルザイは、陰謀話を持ってきた人間は自分に忠実だと判断し、褒美を与えると言う。

二〇〇九年七月七日[極秘]カブール大使館発

 今週、一連の会談を通じて、私(アイケンベリー大使)はカルザイ大統領と多くの問題に関して討論した。

 最近のカルザイとの会談を通じて、二つの対照的な横顔が浮かびあがってきた。一つは、彼は被害妄想的でとても弱い人間であるということだ。国家建設に疎く、国際社会で高く評価され脚光を浴びる時間はもう過ぎ去ったという自意識を過剰に抱いている。もう一つは、常に狡猾な政治家の顔を持つということである。自分自身を民族的英雄と見なし、中央権力の分散によって国を分裂させようとしている政治的ライバルや近隣諸国、そしてアメリカの策略から国を救うことができると思っている。カルザイと我々の関係を再修正するために、我々はこの二つの人格の双方に対処し、挑戦しなければならない。

(了)

〔『中央公論』2011年2月号より〕

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